豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金ETFに関する質問
Page505

金ETFに関する質問

2008年6月13日

今朝の日経に金ETF東証上場の記事が出ているが、早速親しい友人から電話が入った。金融のプロだが金に関してはド素人である。でも、個人的に金ETFを買ってみたいという。投資銀行の債券部門に勤めているので、今回のサブプライム騒動を内部関係者として体験し、つくづくペーパー商品の脆さを痛感したと言う。

"豊島さん、自分で言うのも何ですが、業界の都合で色々付加価値を付けて複雑化した投資商品より、やっぱりシンプルなものがイイですねぇ...。"と、しみじみ。さらに"言ってみれば、この商品は金を買って保管するだけで運用らしい運用もないしウルトラパッシブな投信ですよねぇ。"

"ちょっと待った。これは投資信託法上の投信ではないのだよ、信託法に基づく商品なのだ。"

"はぁ、そうですか、ま、私ら門外漢には、どっちでもいいですけどね。下手にアクティブ運用されて高いコストとられるのがとにかく嫌なんですよ。これも業界人として言うのもなんですけどね。それから、この記事に現物と交換できないと書いてありますけど、現物の裏付けはあるのですよね?"

"うん、正確に言うと、この金ETFを組成する卸元の投資銀行から大口の現引きができる仕組みにはなっているのだけど、証券会社の店頭で個別の現引きにいちいち応じることは実際出来ない。金現物の裏付けは「特定保管」と言って、金地金の刻印番号まで指定し、かつ、ウエブサイトでその保管金庫の写真と刻印番号まで情報公開されているのだよ。(http://www.spdrgoldshares.com/sites/us/)
このサイトをクリックすると金庫写真から保管地金のバーナンバー一覧リストまである。まぁ、この商品の現物所有とはマンションの住民の土地所有権みたいなものさ。"

"私はプライベートバンキング部門も経験したので、この商品は富裕層向けかと思われますが、どうなんでしょう?"

"元々、この商品は欧米では年金向け商品として開発されたものなんだ。私の勤めるWGCの現CEOがカルパースCEOを9年間勤めた米国人でね。バイサイド(年金サイド)の発想で商品開発された。でも、富裕層も買っているようだ。それからネット投資家が取引コストの安さで売買のツールに使っているね。いずれにしても、従来の金投資家とは異なる顧客層だ。"

"たしか、大証も昨年金ETFを上場してましたよね?"

"うん、あの商品は金現物の裏付けがなく、金リンク債という債券に連動する商品だから、債券ETFだね。年金などはサブプライムに懲りてカウンターパーティーリスク(信用リスク)を嫌うから、世界の金ETF市場のマーケットシェアで見ると、NYSEに上場されている現物拠出型が8割近くを占めている。そのNYの商品を、そのまま東証に持ってきて重複上場するわけだ。だから、一株あたりの価格もグラム/円ではなく、1/10オンス(約3.1グラム)あたりの円表示になる。"

"豊島さんは、純金積立を常に薦めてましたけど、どっちがいいんですか?"

"君の娘さんの為に、コツコツ純金積立で、晴れて結婚式の日には金貨に等価交換してプレゼントしてあげれば、もう式当日はウルウルもんでしょう。そして、君は株もやってるようだから、株の銘柄入れ替えの一つの選択肢として金ETFを考えればいいのでは?一般的に言えば、金市場の裾野も随分と広がってきて、金購入層も多様化していている。こつこつ現物派、株式感覚派、などなど、各自のスタイルに合った商品を選べばよろしい。"

2008年