豊島逸夫の手帖

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ヘリコプター タロー

2008年11月13日

定額給付金の話は、米国では目新しいことではない。そもそもバーナンキFRB議長は、学者時代に、不景気になればヘリコプターからドル札ばら撒けばよいと発言したので、ヘリコプター ベンとの異名をとる様になった。

今年6月には"税還付"という形で、国民一人当たり600ドルの小切手が各個人宛に郵送されている。それで一番の恩恵を受けたのがウオールマートであった。600ドルを借金返済に廻さない人たちが、ディスカウント店に押しかけたわけだ。なんやかんやで、GDP0.2-0.3%上昇にはなったが、カンフル剤のようなもので、効果は一過性であることは本欄でも当時再三指摘した記憶がある。だから、景気回復といってもW字型だよと書いた。その後、どうもL字型の気配が濃厚になったが...。

さて、昨晩のNYはポールセン財務長官の爆弾発言に揺れた。例の金融安定化法案(70兆円相当)を、消費者ローン債権、自動車ローン債権、奨学金ローン債権、そしてクレジットカード債権の買取りにも廻すという、基本方針の大転換を発表したのだ。金融危機の影響が、ウオール街を越え、Main Street(普通の街中)にまで波及するに及び、より国民に近いところで公的救済の実感を直接的に味わっていただこうという発想である。

今の米国経済を喩えれば、海難事故の直後に、海には救命浮き輪にすがった人たちが至るところで助けを求めている。そこでキャプテン ポールセンは、まずウオール街の人たちに救命ロープを投げた。しかし、そうしている間に溺死者が続出する有様で、上記の分野にも救命ロープを投げることになった。次にロープを待つのは、自動車産業、航空産業、小売産業などであろう。

それにしても、昨晩のポールセンの方針転換には批判も多い。そもそも金融安定化法案といっても、わずか1ページの文章である。各論は"よしなに"ということなので、なにやら麻生首相の発想にも似ているね。

記者団から"戦略的過ちを認めるか"と詰め寄られたポールセンは、"私は謝らんよ。事実関係が変わったら戦略を変えるのは当たり前でしょ。変えないということで謗り(そしり)を受けるなら謝るけどさ。"と開き直った。ま、財務長官の任期もまもなく切れるのだから、なんとでも言えるのかな。

さてさて、足元の市場は、またぞろ株安、ユーロ安、円高、原油安、金安の展開になった。今週15日が、ヘッジファンドのD-Day(運命の日)。今年の解約申し込み締め切り日とされる。その直前の駆け込みリスク資産圧縮を連想しての売り攻勢であろう。

しかし、今年に限っては、顧客の解約もさることながら、ファンドの解散、清算などがD-Dayの後にも尾を引きそうなので、まだまだ運用資産の処分売りの波は終わらない様相だ。株でもドルでも金でも、決算、清算に追われる人たちが資産処分に追われるときは、決算日の無い人たちが、じっくり買える時でもある。

2008年