豊島逸夫の手帖

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最新金需給四季報

2008年2月14日

2007年10-12月期の世界金需給統計が発表された。

―宝飾需要は、511トン。前年同期比(以下同じ)で18%の減少。
―投資需要は、欧米が248トン。235%の急増。アジア中東は39トンで48%減。
―工業用需要は144トンで18%減。
―国別ではインドが激減。宝飾と投資合計で83.9トンは64%の急減。とくにインドのユーザーはボラティリティー(価格変動性)を嫌う傾向あり。第4四半期の価格変動の大きさが購入意欲を削いだ。好調な経済成長による所得効果より、価格高騰による負の価格効果のほうが勝った。通年では宝飾、投資需要合計で773.6トン。過去最高の1998年の774.4トンにわずか及ばず。(ちなみに1998年の記録は前年年末の輸入解禁の影響による)。
―中東は72.6トンで4%減に止まる。サウジ、UAEの減少を、経済好調なエジプトの増加(プラス9%)がかなり相殺したカタチ。
―対して中国が84.8トンで20%増と健闘。高度経済成長による可処分所得の増加(=所得効果)が、金価格高騰による負の価格効果を上回った。価格高騰が逆に需要を刺激した面もある。インフレ率の高まりもプラスに働いた。通年でも326.1トンと300トンを突破。米国(278.1トン)を抜き(インドに次ぐ)世界第二位の金需要国に。
―米国は110.7トンで15%減。米経済の減速、消費性向の低下げ原因。低価格帯のみならず高価格帯の販売も痛んだ。今後の見通しも暗い。

―供給サイドでは新産金が618トンで7%減。
―中銀売却は98トンで65%増。通年でも485トンで32%増。スイス、スペインの金売却が増加要因なれど、ワシントン協定の範囲内。
―スクラップは277トンで14%増。予想より増えず。引き続き先高観強く、売り戻しを当面控える動き。
―ヘッジ買い戻しはまだ推定の段階だが、50トンで59%増。しかし、100トン以上を記録した第1、第2四半期に比し低水準に止まる。

(筆者のコメント)
最大の需要国インドの激減で、800-900ドル台はまだ実需がついて来られない価格水準であることが確認された。700ドル台までは買い上がってきたもの800ドル以上の高値慣れには至っていない。

429.gif上の図で緑の部分が780ドル程度まで。800-900ドルはまだ青色の部分ということになろう。ただし、中国の需要が逆に価格高騰に刺激されて増加を続けていることには正直 驚き。国民性であろう。重要なことは、中国に関しては、単に高度経済成長の所得効果のみならず、"規制緩和"というツインエンジン構造が金需要を趨勢的に押し上げている事実だろう。直近でも金先物上場というイベントに金需要への刺激効果があったことは間違いない。

今後の注目は米国。サブプライム発の経済減速とともに金需要は明らかに落ち込んでいる。これが、リカプリング効果で中国、インドにも波及するようであれば、グローバルな金需要減退に繋がりかねないリスクを孕む。ただし、金には二面性があり、コモディティー(商品)の顔とともに、マネーの顔がある。景気後退=利下げ=ドル安の構造が変わらない限り、マネーとしての金の需要は高まる。サブプライムの長期化も"質への逃避マネー"流入を促す。今回の需給統計でも、欧米の投資需要が飛躍的に高まり、宝飾需要の減少分を相殺して余りあることは、今後の価格動向を見る上で示唆的であろう。

2008年