豊島逸夫の手帖

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米ゼロ金利突入で金急騰

2008年12月17日

今朝は先を急ぐので、要点だけ。今の金市場に吹く追い風と逆風。

追い風
―外為市場のトレンドが、ベンチマークの対ユーロでドル高からドル安に転じたこと。
―世界的低金利傾向の加速。金利を生まない金にはプラス材料。
―FRBの大量資金投入=通貨乱発によるマネタリーインフレの予感。(公的救済に伴う合併症併発の恐れありだね。とくに、昨晩のFOMC声明で、政府機関債や住宅担保債券、さらに長期国債に至るまでFRB買い取りの可能性を示唆していることを見るにつけ、究極のデフレ対策はインフレ政策なのだと痛感させられる。)
―ビッグスリー問題が金融危機を悪化させる懸念=破たんリスクのない資産へのマネーシフト

逆風
―サブプライム、デフレ、原油急落=いずれもインフレ懸念後退によりインフレヘッジとしての金買いが"目先"は後退する。(追い風で述べたインフレは通貨供給増によるもの。逆風で述べたインフレはコストプッシュインフレと呼ばれるタイプ。前者は慢性的症状に発展するが、後者は急性症状が現れるが長続きはしない。なお、デフレの金価格への影響は、初期段階では下げ要因。それが、ある臨界点を越え、デフレスパイラルに発展すると 信用リスク高まり、一転、上げ要因となる。)
―金現物需要の核となる新興国の景気後退=800ドル以上ではアジア中東の現物買いはストップ。
―いずれ発表が予想されるIMF金売却(400トン)。デフォルトの危機に瀕する国々救済資金捻出のため。
―ハイテク部品としての工業用需要も激減。
―ヘッジファンドの解散、清算が、今後加速する。運用資産売却の動きは金にも及ぶ。リスク資産圧縮傾向は続く。

以上、両サイドとも、なかなか手ごわい材料が顔を並べる。一言でいえば、"デフレ下のドル安"ということかな。

従って、今年春に"原油急騰、インフレ懸念ピークの中のドル安"という環境で金が1000ドルつけた時とは、状況が様変わりである。ゆえに、筆者は短期的には、そう簡単に強気になれない。

ポイントは新興国だと思う。いろいろ言われるが、経済成長率が中国で7-8%、インドで6%程度に落ち着けば、筆者も金に対して強気になれる。とくに、世界一の生産国、世界第二位の需要国である中国が、やはり鍵を握っている。

なお、長期的には筆者はブル(強気)であることは、いささかの変化も無し。今週19日に日本経済新聞出版社から発行される"金を通して世界を読む"では、大局観を240ページにわたって纏めてみた。金投資ハウツーものではなく、自分の実体験に基づき、big picture("鳥の目"で見た俯瞰図)を冷静に語った内容である。

さらに、今週月曜日にすでに発行された同出版社の"2009 投資アウトルック"では、"魚の目"で見た金市場の潮流をまとめて寄稿した。同書に寄稿された、それぞれの市場の専門家の見通しとの比較で読むと面白いと思う。

2008年