2008年11月14日
NY株が一日でダウ900もの幅で乱高下。午前中は8000を割り込んでいたのが、引け前に400以上の急騰。終わってみれば550。最近お馴染みのブーメラン相場である。
円は94円台から97円台へ急落。そして金は一時700ドル割り込んだが、コメックス引け後に730ドル台まで急反騰。それほどの大きな材料が引け際に出たわけではない。
市場内部を見れば、大手金融機関の内部リスク管理が厳しくなった結果、取引相手の与信枠が削減され、自己勘定部門の売買が縮小、停止され、市場の流動性が落ちている。その結果、例えば、顧客がまとまった買い注文を出すと、それに対して自己リスクで売り向かうプロがいなくなるので、値が飛ぶのだ。
投資家サイドはconfidence(市場への信頼感)が欠如しているから、リスクを取りたがらない。プロはリスクを取りたくてもコンプライアンス強化でリスクが取れない。つまり、民間では誰もリスクテーカーがいない。唯一、マーケットのリスクを背負い込んでいるのがFRB、財務省などの公的部門である。だから、自由主義経済を基礎とする米国型資本主義の終焉などと囃されるわけだ。
この危機的状態を打開しようと今週末G20が集結する直前の相場がブーメラン状態になったことは、参加国の危機感共有には役立ったかもしれない。でも、今回の金融サミットを迎えるにあたって最もしらけたことはオバマの不参加である。出席するのは、ブッシュとポールセンというlame duck コンビ。
1932年の大恐慌時にフーバー大統領が敗れ、ルーズベルトが当選した。その引継ぎ期間に、フーバーはルーズベルトに経済打開のための"共同声明"を出すことを再三提案したが、ルーズベルトは固辞し続けた。大恐慌の責任はフーバーにあることを明確に示したかったわけだ。同様の心理がオバマにも働いている。今の時点でオバマが米国代表団の一員としてノコノコ出て行ったら、サブプライム震源国としてブッシュと共に"世間をお騒がせしました"という外交的ポーズを強いられよう。
中国だって、76兆円相当もの大型財政出動の発表を数日待って週末の金融サミットで公表したら、もっともっと会議も盛り上がっただろうにね。うちらも気張るから、みなはんもお気張りや、というノリでやってほしかったな。
それでも、今回の金融サミットで、少なくも債権国が債務国救済のために余剰資金の一部を拠出する案は支持されている。(ここで債権国マネーとしてオイルマネー、チャイナマネーの名前ばかり外電には出てきて、ジャパンの存在が薄いことが寂しいのだ。日本のメディアは麻生提案とか囃しているが、いかにも首相官邸の記者クラブ発の報道っぽいね。でも、マジにここはうまく立ち回ればジャパンの外交的晴れ舞台になりうると思うが。本当にジャパンの外交能力が試される。それがFTやWSJで評価されれば、日本のプレゼンスが高まる証となろう。)
さて、昨晩のもう一つの話題が、ヘッジファンドの大物たちが議会聴聞会に呼ばれたこと。なにかと秘密のベールに包まれている人たちゆえ、公の場に出ることは極めて稀なことである。今や2.5兆ドル規模に膨らんだヘッジファンド。それが10月だけで1000億ドルの運用資産が減少し、そのうち600億ドルが顧客の解約によると言う。
ヘッジファンドなんて私には関係ないわよ、と言ったところで、日本の年金だって今や活発にヘッジファンドで運用する時代ゆえ、多くの国民が間接的にヘッジファンドに投資しているのだ。
そこで情報開示を要求して、業務に対する監視を強化しようという流れになっている。昨晩の聴聞会でも、ヘッジファンド側は、規制はやむをえないが、問題はレバレッジゆえ、レバレッジ自体に規制の網をかけるべき。ヘッジファンドを狙い撃ちにするな、という論調であった。
対して質問する側の議員からは"コツコツ働いている年収500万円の人に対しては25%の課税。対して、ヘッジファンドは今回出席のファンドがいずれも1000億円単位で儲けてきたのに、パートナーシップを利用して15%の税金で済んでいる。これは許せん。"と追及の構え。
10月17日付け本欄に"ヘッジファンドは公的救済されず"と書いたが、公的救済されないということは、これまでの民間主導の自由競争市場を守る最後の砦が我々ヘッジファンドなのだ、というような発言もあった。
さてさて、えらい時期(今週末日曜日)のWGC単独開催セミナーと相成りました。応募数は800近く。これまでで最高です。応募の半分以上が、このブログ読者でした。アクセス数も鰻上りです。急遽、会場の椅子席を増やして500名までは入れるようにしました。金融サミット共同声明発表直後というタイミングになりそう。事前原稿などには縛られず、ぶっつけ本番で行きます。