豊島逸夫の手帖

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ドル防衛策のジレンマ

2008年6月19日

利上げを仄めかすECB(欧州中央銀行)に対して、FRBが何もしなければドルユーロ金利差は拡大し、ユーロ高ドル安が加速する。そこで、米国政府要人の相次ぐドル防衛発言による"口先介入"が話題になっている。ところが、その米国が中国に対しては人民元高、ドル安を強く望んでいる。ここに大きなジレンマ(=tradeoff)がある。

さらに中東湾岸諸国はドル高歓迎である。ドルペッグ制(ドルと自国通貨を固定相場にする制度)を採っているので、ドル安は輸入物価上昇と通じ自国内のインフレを加速させるからだ。油は売るほどあるけど、食糧はからきし無く輸入に頼る湾岸諸国にとって、これは重要な問題だ。

そして、我が日本はどうかと言えば、バーナンキのドル安懸念発言以来のドル高円安加速で、兜町の株式市場は恩恵を受けている。

話はtradeoffに戻るが、結局、米国は本当にドル防衛策など実施できる立場にはない。各国の利害の葛藤もあり、国際協調介入も無理である。そもそも、なぜドル離れが起こったのか。米国の過剰消費、過小貯蓄、対して中国の過剰貯蓄、過剰消費という国際経済不均衡こそが、その根底にある構造的要因である。米国人のライフスタイルが変わらない限り、ドル防衛策を唱えても詮無いことだ。ドル不安の大きな潮流が変わるはずもない。投資家の立場では"口先介入"に惑わされず、長期的見方がブレないようにせねばならぬ。

次に原油と金。原油急騰に比し、金の上昇速度が"比較的"に遅い。この理由は簡単。原油は燃えれば消える。金は腐食せず残る。従って金は高値になるとリサイクル(環流)してくる。これが供給増となり相場の頭を叩く。リサイクルをこなしながらの上昇ゆえ、時間はかかる。

生産面では、原油は液体、金は固体ということが重要な違いだ。これからの有望な埋蔵量は海底にある時代だ。原油は海底をドリルすればピュッと噴出してくれるが、金はそうはゆかない。海底から金鉱石を1トンようやくの思いで採掘、さらに海上運搬して、抽出できる金の量は5グラム。つまり、金の生産のほうが増えにくいのだ。価格弾力性が低いとも言える。一方、原油は生産量を国際カルテルでコントロールしている。この原油と金の生産面における差は長期的にジワジワ効くと思う。

昨日は東証のセミナーホールで講演した。筆者の数多い講演でも東証で行ったのは初めて。相手は証券会社の担当者であった。会場に来て、あらためて金を東証で語る時代になったのかと実感した。今日の日経朝刊にも、"金ETF上場記念 機関投資家セミナー"の案内が出ている。ここでも最初のスピーカーは東証の斎藤社長。そして、私のボスで元カルパースCEOが基調講演を行う。ここでも時代の流れを感じる。

最近の筆者の行動範囲は青山1丁目の事務所を基点にして、六本木ミッドタウンのステートストリート、六本木ヒルズの大手投資銀行、そして兜町をシャトルする毎日。ここでも、金市場の"構造改革"を実感する。だいぶお疲れさんであるが、新たな流れにチャンレンジしてクリエイトすると言う意味で、心は燃えている。金の専門家というより新金融商品上場の専門家になってしまったよ(笑)。

それにしても昨日の証券会社相手のセミナーは静かだったなぁ。WGC主催の個人投資家向けセミナーの、あの"熱気"は全く感じられない。サラサラと事務的にメモと取る音だけがシーンと静まりかえった場内に響く。信託報酬料が年率0.4%では、儲からないからねぇ。ギョーカイとして旨味のある商品ではないことを痛感。ということは投資家にとっては、旨味のある商品なのだよね。この金ETFという商品。投資家主導で、ジワジワ浸透するタイプだと感じた。

2008年