豊島逸夫の手帖

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1月動乱相場で儲けた人たち

2008年2月4日

大雪の日曜日はセミナー講演もなく、あったかい寝床をコタツがわりに猫(モモといいます)と一緒にひたすら睡眠不足を取り戻す"こたつむり"の24時間。人間、こういう時には、なぜか来し方を振り返る回顧ムードになるもの。といってもマーケットのことゆえ、せいぜい2008年1月の動乱相場のことではあるが。(最初に断っておくが、今日の話は中級者向けであるよ)。

おりしもラスベガスではAnnual Securitization Conference=証券化商品国際会議が開催中とか。昨年は6000人以上も参加して盛り上がった同会議も、今年はサブプライム関連仕組み債が元凶とされる市場環境の激変で"反省"ムード一色。

シティーグループ ストラテジスト氏"これからはback to basics(基本への回帰)さ。シンプルで、余計な付加価値は付けず、分りやすく、出来れば、より短期のものが増えるだろう。""証券化の考え方そのものが間違っているとは思わないが、ちょっとやりすぎたね。"との本音も。参加者が皆恐れるのは、サブプライムの羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹きかねない当局の規制強化。

そして。動乱の1月相場。一番の負け頭がアルゴリズムトレードだとか。コンピューターを駆使して、大量の売買注文をあの手この手でさばく手法である。そのプログラムに想定外の状況が生じ、さらに、そのプログラムの一部を臨機応変に改善のつもりでいじくってしまい、損失がさらに拡大。人間の余計な浅知恵を排するのが売りの手法に、浅知恵を入れてしまったわけだ。元トレーダーの筆者としては、気持ちは分かるけどね。損失が広がり、担当としてもただ傍観するに忍びなかったのだろうけど。

逆に儲け頭がinverse fund(逆張りファンド)。たとえば、ウルトラショート金融株ETFとかウルトラショート中国株指数ETF。金融株指数や中国株指数が1%下落すると2%儲かる仕組み。単なる従来型の"カラ売り"と異なり、初期投資額以上の損失は出ない。"空売り 青天井"の相場格言が当てはまらない商品である。ただし、期間限定商品で、しかも手数料が95bp(0.95%)とETFにしては割高である。

それから、株式のプットオプションとコールオプションを同じ株価水準で同時に買う"ストラドル"という手法。株価が上下どちらかに大きく振れるとかなりの儲け。最悪、株価がどちらにも動かなくても損失は掛け捨てオプションプレミアムに限定される。

さらに、VIX(ボラティリティー インデックス)。別名、ウオール街の不安指数とも呼ばれるが、これにベットして(賭けて)大儲けした人たちも結構いるようだ。上げでも下げでも相場が荒れれば荒れるほど儲かる仕組みだから。ただし、ここに述べた商品は どれもニッチな存在ではある。

それから筆者の目を引いたビジネスウイーク記事(2月4日号)。サブプライムの勝者と題して資産運用会社ブラックロックのCEOラリー フィンク氏を大々的に紹介。メリルが49.8%の株を持つ、運用資産136兆円の同社の2007年第4四半期業績は利益90%増。同社株価も2007年初から36%アップ(金融株平均でマイナス25%、あのゴールドマンでさえ株価はフラット)。同氏は若い頃、ファーストボストンで住宅ローン担保証券に手を出し大火傷した経験から、リスクマネジメントの重要性を痛感。"常に後ろを振り返り、間違いないか確認する"習性となったそうだ。今回のサブプライム問題もウオール街が騒ぎだす18ヶ月も前の2005年時点で住宅金融市場の脆弱性を察知。2006-7年はほとんど手を付けず、サブプライム関連損失も今期45億円程度(シティー1兆8千億円、メリル1兆5千億円相当)。それどころか、同社旗艦ファンド オブシディアンは不動産価格下落にベットして収益30%アップ。昨年、一時は同氏がメリルやシティーの後任CEO候補に名前が挙がった理由も分かる。

最後に足元の金価格。先週金曜日のNY時間朝10時過ぎに突然930ドルから910ドルまで瞬時に20ドルも急落した。24時間の変動幅も高値935ドルから安値905ドルまで30ドルに達する。売りの先鞭をつけたのが(信頼できる消息筋によれば)、ベアースターンズとのこと。そしてストップロスの売りが下げを加速させた。べ社といえば、本欄2007年10月22日付け"ヘッジファンド破たんの実態"で詳説したが、サブプライムショックのキッカケを作ったウオール街の老舗。資産の換金売りと考えてしまうのは、勘ぐりすぎかな。

金独自の売り材料といっても、ドルがユーロに対し一時反騰した程度で、結局は、これまでの急騰に対する反動、利益確定売りと言うよりほかない。

NY株は、米月間雇用統計が4年半ぶりにマイナスに転じるというニュースより、マイクロソフトのヤフーへの超大型買収提案のインパクトが優ったカタチ。M&Aによる流動性復活の希望的観測か。モノライン問題が依然、影を落とす。三つの大きな材料出現にシーソー相場。

2008年