豊島逸夫の手帖

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祝設立!ベン&ヘンリー・キャピタル・マネジメント賛江 ジェフ寄利

2008年10月6日

いよいよ議会が、78兆円を、ベンバーナンキとヘンリー(ハンク)ポールセンの元学者&元投資銀行CEOのコンビに任せて、金融機関からの不良債権買取に応じることになった。NY株式市場の反応は下院投票前、ダウ300ドル近い急騰、投票可決後に急落して157ドル安で引け。

危篤の患者に対して輸血の量の確保には目途が立ったが、手術はこれからなのだ。輸血で患者の体が拒否反応を起こさないか(銀行が不良債権売却に応じるような価格が提示されるか)、輸血後、患部の機能が回復するか(貸し渋りの銀行貸出が再開するか)。その保証は全く無い。ベンとヘンリーの腕の見せ所だ。

英語の読める人は、下記のバロンズ誌(オンライン)のカバーストーリー"Let It Flow"を是非読んで欲しい。水道の蛇口から渇水期みたいに水滴がポツンと落ちているイラストの記事である。
http://online.barrons.com/(現在公開されていません。)

まず1年前と現在の比較で目立つ数字。

  現在 1年前
 FFレート 2%  4.75% 
 3か月もの財務省証券利回り 0.68%  3.95% 
 ハイイールド社債インデックス 13.93%  8.70% 
 新規住宅ローン(第二 四半期) 350億ドル  1,040億ドル 
 サブプライム自動車ローン 申請認可率 20%  67% 
 ちなみにバロンズ誌には載っていないが金価格 830ドル  730ドル 

発行体の破たんリスクを嫌ったマネーが短期米国債に流入、社債から流出、マイホームやマイカーを買うにもローンを組めない、という米国民の実態がよく現れているね。

同記事は、こう綴る。

―TARP(金融安定化法案の略称)の買い取り価格は、最低でもファイアセール(火事場で水浸し商品の在庫叩き売り)価格以上、でも将来、不良債権を買い取ったベン&ヘンリー社が多少は債権価格上昇で儲かる程度の安い仕入価格であることが必要という、微妙な言い回しだ。

―そこで時価と簿価の中間の折衷案として、財務諸表の脚注に適正と推定される不良資産価値から算出される想定損失評価額を明示し、それを当該不良債権の期日まで未払い勘定(accrue―経過勘定)に計上せよ、という。
要は臭いものに蓋はせず、臭さを感じてもらい、しかる後に冷凍庫で長期保管せよ、ということだろう(ここは筆者記。)

―さらに 金融機関に対して、追加的資本注入、主要国間の協調利下げが必要と締めくくっている。

おおむね筆者がこれまで本欄で書いてきた感覚に近いので共感を覚える内容だ。このままでは、信用収縮、凍結の救済=mission accomplishedとはならず。(大江戸捜査網の旗本寄合席、内藤勘解由の命を受けた隠密同心ニ名の任務遂行とはならず、というと、ちょっと古いかな 笑)。

今朝のNHKニュースで金が安全資産として人気と取り上げられていた。"安全資産"とは、ちょっと危険な物言いである。信用リスクはゼロだから金現物なら破たんしない、という意味では"安全"。でも価格リスクはあるから"安全"とは言えない。

しかし、同NHKニュースで埼玉県東松山の福祉協議会とやらが1億円ものリーマン社債を購入していて、それが紙くずになるという話を流していた。担当者の談話は例によって"まさか..."。会報をモノクロにするとか車イスの管理を合理化するとか、ちょっと悲しくなるような対応を迫られているそうだ。

でも、サブプライム問題が米国では、ウオール街からMainStreet=町の問題になり、日本でも丸の内の金融街から(筆者の住まう)池上通りの問題になってきたことはたしか。筆者もそれを実感したのは、先週、週刊現代とかフライデーとかの取材が来たこと。今週記事で出るらしいが、出来るだけ抑えて客観的に語ることに努めている。おそらく大恐慌とか筆者がちょっと引いてしまうような見出しになるだろうから...。

株も金もなにもかも、ちょっと上がれば待ってましたとばかりにヘッジファンドが運用資産現金化に走ることは必定。金も現物以外の金融商品化が進んで、ファンドなどが30倍のレバレッジを掛けて購入していたわけで、そのレバレッジ外しが始まると、売りのマグニチュードも30倍ということになる。

しかもユーロ安、原油安、世界同時不況ということになると、質への逃避マネーが金ETFを100トン以上買い上げたところで、価格上昇余地は限定される。まぁ、それでも他の資産に比べれば、はるかにマシではあるけど、過大な期待感は禁物だよ。

2008年