豊島逸夫の手帖

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予想より早く大雪崩

2008年3月20日

1000ドルを突破し、ベアースターンズ破たんによる信用不安も極度に達し、株債券市場からの逃避マネー流入も続き、金価格はモメンタム(勢い)で1050ドル程度まで突っ走るかと思ったが、予想より早く新雪雪崩が起きた。19日の国際金価格は一時990ドル台を回復した後、NY時間に入り930ドル台まで暴落。信用収縮の余波でファンドの換金売りの雪崩である。
本欄3月7日付け"嵐の中の飛行"の下記の図を今一度見てほしい。

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"膨張した"投機マネーが、イースターを前に一斉に売り手仕舞いに出たのだ。イースターと言えば、日本のお盆のようなもので今日(20日)のマーケットは半ドン。明日金曜日と月曜日は休場の所が多い。ベアースターンズが2日間で破たんした記憶が余りにナマナマしく、買い持ちポジションを抱えたまま4日間も休暇に入ることが、いかにも気持ち悪い。そんな、マーケットのセンチメントが売りを誘った。一人が売り始めると、皆が一斉に"非常出口"に殺到する"劇場のシンドローム"現象。60ドルの棒下げとなった。

下げは商品市場全体に及び、原油も一日で5%の急落。べースメタルも連れ安に。その背景には、メリルリンチが金融保証業者の訴訟に動いたとの報道。これが、第二のベアースターンズはメリルかとの憶測を呼ぶ結果に。リーマン、ゴールドマンサックスの株価も再び急落。

一方で、ファニーメイとフレディーマックの二大住宅金融公社に対して特別措置が決定され、住宅抵当債券買取枠が新たに200億ドル(20兆円)設定されるという画期的な材料もあったが、市場の疑心暗鬼は収まらず。ヘッジファンドを中心に、売れるものから売り(流動性の高い資産から売り手仕舞い)キャッシュポジションを高めて嵐の過ぎるのを待つ動きが加速した。

キーワードは、deleverage=レバレッジ外し。3月17日付け "噂で売ってニュースで売られたベアスタ"に書いた下記の現象である。

カーライルのヘッジファンドは25倍から30倍のレバレッジを効かせていた。ヘッジファンド業界では珍しくない数字だ。これが一斉に外される。つまり、ヘッジファンドに融資していた銀行団が一斉に追加担保を要求し始めた。この禍は財務健全なファンドにも及ぶ。(引用終わり)

信用収縮の中でいつ銀行団から追加担保を要求されるか分らない。ベアースターンズ救済も現地日曜の夜に緊急決定された。イースター休暇は長い。今のうちに金の買いポジションも売り手仕舞い流動化して身軽になり、万が一に備えようという発想である。3月7日付け本欄に示したもうひとつの図も再掲載しておく。

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昨日も述べたようにインドの金輸入量は、1-3月で前年同期比8割減の30トン弱に激減の様相。そしてついに金ETFも昨日は17トン急減し810トンとなった。

まとめに3月4日付け"1000ドル目前 これからどうなる"に書いたことをこれも再掲載しておこう。

この市場への環流が"臨界点"に達したときが、価格の転換点になるのだろう。根雪(長期保有)の上に積もったフワフワ新雪(投機買い)が雪崩を起こす。雪崩を誘発するきっかけは、マーケットがコツンと感じる利下げ打ち止めの"音"になるかもしれない。
以上まとめると、虫の目で見れば、足元で株安、ドル安、商品高 加速。魚の目で見れば、サブプライム鎮静化、利上げ転換、中国経済8%台への減速、という潮の目の中期的変化。鳥の目で見れば、生産の増えない稀少資源に中国、インド、年金マネー、オイルマネーが群がる長期的構図に変わりはない。(引用終わり)

FFレートが2.25%にまで低下したところで、残された利下げ余地はせいぜい0.5%から1%。これ以上利下げしても"流動性の罠"に陥り、金融緩和政策の効き目がなくなる恐れもある。FOMCの喧噪のなかで、利下げ打ち止めも近いという"コツン"という音が、かき消されてしまった。FOMC声明がインフレ警戒感を強く打ち出したことも、利下げ催促相場に対する牽制球とも読めたわけだ。まだ追加利下げは続こうが、先読みすれば、潮の目に変化の兆しは見える。そして、金市場は先読みすることで知られる。

新雪、根雪の図で示したようにバブルと非バブルの境は850ドル前後の価格水準。下値の目途は3月14日本欄に書いたレンジ下限の880ドル。

しかし、鳥の目で見れば、長期上昇構図に変わりはない。

2008年