豊島逸夫の手帖

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ウオール街の魔女狩り始まる

2008年6月20日

ついにベアスタのヘッジファンドマネージャー2名が逮捕された。本欄2007年10月22日付け"ヘッジファンド破たんの実態"で詳報したファンドのマネージャー、チオッフィ、タニン両名が、詐欺罪、インサイダー容疑で起訴されたのだ。そのファンドの名前は(今となっては何とも虚しく響くが)、ハイグレードファンドとEnhanced Fund (直訳すれば改善ファンド?)。

10月22日の原稿の中で、2007年2月から同ファンドの顧客が騒ぎだしたと書いたが、検察当局の昨晩の記者会見では、正に2007年3月の経緯が詳細に語られている。その月には両名ともファンドの破たん必至を認識。ファンドの流動性、サブプライム投資の危険性について情報開示を怠ったという告発だ。"いずれマーケットは好転するというfutile hope=虚しい期待を抱いていた"と厳しい指摘。

とくに業界用語でskin in the gameと呼ばれる手法が問題視されている。この言葉はバフェット氏が言い出した用語で、経営陣が自社株を購入したり、ファンドマネージャーが自己資金を担当ファンドにつぎ込むことにより投資家(顧客)を安心させ、参加を募るというやり方だ。このskin in the gameの手法で、タニン容疑者は、Enhanced Fundに自分もカネ入れているからと3月時点で顧客を説得。しかし、実際には入れていなかった。

さらに同月、チオッフィ容疑者は、Enhanced Fundから自己投資分600万ドルのうち200万ドルを引き出し、ベアスタの他の成績良いファンドへ移したという(これはインサイダー容疑)。その間、彼は顧客から"お前の出資分はどうするのだ"と再三聞かれたが、事実を投資家にも社内にも告知しなかった。

さらに、4月になると、顧客の解約が加速。某大手個人出資者が全額5700万ドルを解約したのだが、その数日後の公開コンファレンスコール(電話会見)では、"解約はsmall. Only a couple of million dollars=たいしたことない、ほんの数100万ドル"と述べている。

また、社内のEメール記録も押収され、そこでは、ファンドの実態についてperilous=危険と書かれている。そして、ついに6月には破たんし、投資家は総額10億ドル(1000億円強)を失うに到る。

さてさて、昨晩のウオール街は この話題でもちきり。はっきり言って"明日は我が身か"というムードである。弁護士から言わせれば、本件の立証は至難という。しかし、もし有罪となれば、ベアスタほど酷くなくても、それに近い"業界慣習"は蔓延していたので、内心穏やかでないプレーヤーも多いのだ。

今回逮捕された2名はスケープゴートなのか、あるいは検察当局による魔女狩りの始まりなのか。米国では、経済メディアのみならず、一般メディアも取り上げるような問題になってきた。

2008年