豊島逸夫の手帖

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900ドル回復

2008年4月3日

4月1日には一時880ドル割れも演じた金価格が、880ドル水準を揉みあった後、昨晩(2日)には900ドルを回復した。前日比20ドル近い急反騰である。先物手仕舞い売りと現物買いとのせめぎ合いが続く。

昨晩はNY時間で急騰しているが、24時間電子取引システムが確立した市場では、アジア中東のプレーヤーがNY時間に買いを入れることもしばしば。NYで上げたから先物の買いと単純に断定できない。

年間少なくも600トンの需要は堅いインドが、ここまでまだ30トン前後しか金を輸入していないこと、5月には結婚シーズンを迎えることを考えれば、これまで待っていた買いが相当入ることが予想される。

考えてみれば、今年はまだ3か月が終わったばかりなのだよね。なにかすでに1年分騒いだような気分だが。まだ9か月も残っている。先は長い。4月入りで第2ラウンド突入か。

さて、昨晩のNYの話題はなんといってもバーナンキ発言。米経済をcontractと表現した。この単語は縮小するというような意味で、ニュアンスはかなり強い。さらにR-word(Rで始まる忌み言葉)とも表現されるrecessionという単語も使ってしまった。これは議会証言としては、劇的な発言と言える。

その割にマーケットがパニックにならなかったのは、バーナンキさんに言われなくても、とっくに織り込み済みということだろう。NY株もresilient(しぶとく持ちこたえ)。ドル円も102円のドル高、円安に振れている。円安に動くと欧米ではいまだに投資家のリスクテーク回復=円キャリ復活などと言われる。

そこでマーケットが最も知りたいのは、その後どうなるの?ということ。バーナンキさんは財政出動も寄与してsustainable(持続性ある)回復基調と言ってくれたが、ここは賛否両論分かれるところ。筆者はダブルディップ(回復が弱く、減税小切手を国民が使いきったところで再び失速)と見る。

なお、バーナンキ発言で注目されたのは、べアスタ危機をFRBが知らされ救済決断に至るまで、24時間の猶予しかなかったということ。まさにギリギリの綱渡りだったのだね。その後、一時はリーマンに飛び火しそうになったが、これは回避された。昨日引用したリーマンCFOのコメントにもあったが、風評に基づき株をショート(空売り)されて危機的状況に陥ることを非難する声も多くなってきた。

この場合のショートとは、株のプットオプション購入とか債務不履行に対する保険(credit insurance)購入などの手段である。たとえばリーマンの場合は、発行済株式数5億2490万株の9.2%に相当する4656万株のショートポジションが形成され、同社の株価は20ドル―40ドルのレンジで乱高下した。ちなみに、この騒動が持ち上がる前のショートは1360万株であったという。さらに、債務不履行保険(期間5年間)のコストは1年前に30,000ドルだったのが、信用不安のピーク時には580,000ドルにまで跳ね上がったが、直近では295,000ドルまで下落中だ。それでもまだ高水準。こういうマーケットの生の数字は、金融不安がまだまだ根強く残ることを雄弁に物語る。

なお、べアスタ破たんについては以下のような陰謀説もしきりに囁かれる。同社に口座を持つヘッジファンドがべアスタ株をショートした後に、口座から資金を引き揚げたというストーリー。すでに訴訟の動きもあるという。

このような情勢下では、信用収縮が治まったとは言えず、銀行も疑心暗鬼。銀行団から追加担保を要求されたファンドのディレバレッジ=金換金売りが、今後も五月雨式に出ることが考えられる。

ただし、マクロ経済環境を見るに米国の実質金利マイナスという状況が特に金にとっては重要。これがボディーブローのようにジワジワ効いてくると思う。まとまった換金売りのワンツーパンチを浴びながら、"現物買い"という水分を補強しつつ、"マイナス実質金利"のボディーブローで反撃を続け、ジワジワ態勢を立て直してゆくと見る。第2ラウンドは前半打ち込まれ、後半持ち直し、僅差の判定勝ちか。

2008年