豊島逸夫の手帖

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新たな需給均衡価格の模索が続く

2008年8月29日

1週間のご無沙汰。更新の間隔が空き、ご心配も頂いたが、単に夏休み明けで仕事がメチャ忙しかっただけ。マーケットも今週のNYはレイバーデイ ウイークエンドの前で皆が一斉に休暇を取る週ゆえ、取引は薄く、価格の信頼性も乏しい。まともにコメントする地合いでもなかったので黙って見ていた。金価格は805-845ドルのレンジで乱高下したけど、結局行って来い。まぁ、若干強含みではあるが...。

レイバーデイも明ければ、いよいよ秋相場本格突入となる。潮流は商品価格調整中で、メディアには"商品サイクルも終わった"という論調が目立つ。毎度感じることだが、極端なのだよね。商品価格上昇中は、資源価格が永遠に上がるかのような報道で満ち、下落に転じると、商品バブルは弾けた、となる。
でも、冷静に考えると、下記の図が示すような状況が続いているのだと思う。これは筆者が昨年のセミナーで頻繁に使った図なので、またかと思われる読者も多いと思うが、改めて眺めてほしい。ここが基本だから。
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経済学のABCだが、需要曲線と供給曲線の交点(E)に需給均衡価格は収斂する。マーケットの構造が変わらない"静的"なケースでは、Eから価格が上昇すれば需要は減少し、供給が増えることで、やがてEに戻る(収斂する。)一昔前の商品市場がこのケースで、価格上昇下落の循環が繰り返されるだけであった。

しかし、今や、市場の構造が根本的に変化の真っ只中にある時代だ。世界的人口増加や新興大国の登場、そして欧米年金基金の参入などで需要曲線そのものが右上にシフトした(D → D')。そうなると需給均衡価格もEからE'にシフトする。経済学の理屈から言えば、"需要曲線がシフトして、新たな均衡価格に収斂する"という表現になるのだが、実際のマーケットではそう簡単に新たな均衡価格(E')が決まるわけではない。試行錯誤が繰り返され、オーバーシュート、アンダーシュート、買われ過ぎ、売られ過ぎの山や谷を経て暗中模索の中で、徐々に新たな均衡価格に収斂してゆくわけだ。

金価格で言えば、4-5年前の均衡価格(E)は400ドル前後であったが、マーケットの構造が変わった今、新たな均衡価格は、果たして700ドルか、800ドルか、900ドルか、模索している過程にあるのだ。

今年に入っての価格の流れを振り返れば、1000ドルでは実需が引っ込みオーバーシュートとなり、投機的買いポジションが一斉に手仕舞われれば、アッツという間に800ドル割れ、700ドル台突入というアンダーシュートとなった。しかし、700ドル台ともなれば実需が急増し、世界中のリファイナリー(金地金製造工場)が休日返上の24時間作業でも1か月待ち、などのアンダーシュート現象が見られることも確認された。1000ドルは高すぎるが700ドルは安すぎる。750<E'<1000という不等式にでもなろうか。

筆者は、850ドル以下は安すぎる。アンダーシュート(売られ過ぎ)と感じている。

2008年