豊島逸夫の手帖

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東証金ETF談義

2008年6月18日

先週金曜日の東証の発表が直ちに外電で世界を巡り、その後、連日、筆者の友人の欧米アナリストたちから問い合わせがメールで舞い込んでいる。彼らにとって、今年のアジア関連トピックとして、上海金先物上場と東証金ETF上場が二大関心事だからだ。

"Jeff(筆者の源氏名)。どれくらい売れると思う?"

"Don't expect a miracle!=奇跡を期待するな。NY証取の例を見ても、上場後、半年以上は鳴かず飛ばず。まず販売サイドが、これまで扱った経験の無い分野の商品だから、顧客に説明できるためには勉強が必要。事務的にも、社内の連携プレーが最初はぎくしゃくするもの。店頭では、顧客に対するリスク説明だけでも、ご存じのように1時間以上要する時代だからね。ましてコモディティー関連となると、売る方も神経質にならざるを得ない。"

"どういう日本人投資家が買うのかね?"

"まず、ネット投資家が来そう。運用コストが安く、クリックひとつで銘柄入れ替えできるし、店頭のリスク説明に要する時間も少ないしね。商品概要もネットで検索して自分で勉強してくる人たちだ。
サブプライムで懲りて、レバレッジかけずにおカネを入れたい投資家たちには 向いている商品と言える。ミドルリスク、ミドルリターンと言えるかな。これも時代の流れだね。
次に、富裕層。これまで金現物を保管するのも抵抗感あるし、金先物はハイリスクハイリターンなので、'金'には興味あるけど、自分に合った商品が無いと感じていた人たちが全体の45%もいるんだ。そういう人たちが、上場有価証券なら証券口座も持っているし、現物の裏付けも100%あるから安心ということで、分散投資の一選択肢として考え易いのでは。
最後に、これは、来年以降になると思うけど、機関投資家。日本の機関投資家は、今、コモディティー全般の"お勉強中"だ。私もよくそのような席に呼ばれる。実は今日も東証主催の証券会社向け説明会に出向くのだけれどね。以前のことだが、ある年金基金の人がセミナーの後で寄ってきて'理屈はともかく カルパースが買ったら、うちも、やりますわ。ワッハッハッ。'と言った一言が象徴的だった。横並びで、主流が始めると一斉に走り出す。ウオーミングアップに時間を要するけど、ある臨界点に達すると急激に動き出すのだ。実は、米国でも同じような現象が見られたから、保守的な年金の体質は洋の東西を問わず変わらないね。"

"そうだね。足元では我々欧米サイドでは、インデックス投資が規制の対象になりかかっている。現物の流れから余りに乖離した商品に大量のマネーが流入することに一種の危機感が生まれている。その点、現物を実際に買って、カストディアンの金庫にバーナンバーごとに開示して保管する商品は、'モノ'の流れが分りやすいよね。これも時代の流れなんじゃないかな?"

"日本人はバブルで懲りた富裕層が多いから、他国に比し、現物に対する執着が強いのが特徴だ。現物拠出型の金ETFにしても、実質的に現受け出来ないということで、失望感も強いよ。"

"だってJeff。そもそも、この商品は、現物を持ちたがらないけど現物の安心感も欲しいという欧米投資家のニーズに沿って開発された商品だぜ。欧米で金ETFの現受けなど全く例がない。"

"それは国民性の違いなのかな。日本では現受けを希望する人たちと現受けにはこだわらない人たちと二手に分かれると思うよ。それだけ投資家も多様化しているし。
それから、日本では、最近、ロコロンドンを語る詐欺商法がメディアを賑わせている。甘いセールストークに乗ってしまうのも、根本は情報が不足しているからだと思う。金融リテラシーのレベルもまだ低いしね。
まぁ、この現物拠出型の金ETFは、公式ウエブサイトにカストディアンHSBCの金庫内写真まで公開されているから分りやすい。"

"カラ売りも出来るシステムだよね?"

"うん、これは裁定取引をする立場からは重要なことで、市場の流動性の厚みが増す効果がある。個人投資家でもレバレッジかけずに'ほどほどに'ショート出来るしね。"

"そらそら、君はディラー時代に同僚からショートのJeffと言われるくらいカラ売りが得意技だったが、まだ変わっていないようだねぇ(笑)"

2008年