豊島逸夫の手帖

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Bloody Friday

2008年6月9日

秋葉原の事件は、TokyoのBloody Sunday(血の日曜日)として世界中に伝えられているが、NYマーケットの先週金曜日はBloody Fridayであった。

まず、米雇用統計。ひと月で失業率0.5%も急速に悪化というのは、どうもスピードが速すぎるのでは?今回は、多くのティーンエージャーの雇用が決定後、解約されたという季節的要因があるという。来月の雇用統計で、まだひと波乱ありそう。それから、新規雇用数はマイナス49000人。今年に入り毎月の減少で総計マイナス30万人程度に達したが、2001年のハイテク不況では、ひと月で30万人減の数字もあった。

まだまだ金曜発表の数字をこのまま鵜呑みにするのは早計の感あり。しかし、タイミングがドル安に見事にはまったね。先週は、まずバーナンキドル安懸念発言でFRBのドル高誘導"口先介入"の後、ECBトリシェ総裁の"利上げ示唆発言"で、あっさりドル安(対ユーロ)急再燃。そこに、この雇用統計。相場は生き物と言うけれど、これがマーケットの流れ=モメンタムなのだね。こういうときは、日々、素直についてゆくしかない。これディーラー経験から得た自分なりの教訓。

そして 原油暴騰(と言っていいと思う)。こういう派手な値動きは、まずショートカバーと相場は決まっている。120ドル台で空売りが増えた途端に、 金曜日に色々な材料が飛び出し、パニック的に買い戻しが生じた。その材料を纏めてみる。

―"イスラエルによるイラン攻撃示唆発言"。この発言をしたのは、イスラエル副首相モファズ氏(イラン生まれ)、防衛問題担当、次期首相を狙う人物。"イランへの経済制裁が効かなければ、イラン核施設への攻撃はunavoidable=避け難い。We will attack it=我々は攻撃する。"とまで大衆紙のインタビューで語った。さらに、イラン大統領が"イスラエルを地図から抹消する"と述べた発言に対しては、"我が国が消えるまえにイランが消える"とまで。まさに売り言葉に買い言葉。当のイスラエル首相官邸は、"全ての選択肢がオープン"。対して、米国サイドは"イラン情勢の進行スピードの感覚がイスラエルと米国では異なるようだ"と慎重。イスラエル総選挙の可能性が強まる中での モファズ氏の、"大見得"発言にも見える。

―モルガンスタンレーのアナリストが、"米国独立記念日7月4日までに(原油価格)150ドル"という実現期限を付けた予測。あくまでshort-term spike(短期の急騰)ということだが。どうも大手投資銀行の原油アナリストが競って新聞見出しを取れるような書き方をしているみたい。でも、こういうコメントが、その度にマーケットには効いているのだよね。これも"口先介入"?

―そして、上述のドル安が、例によって原油高を加速。丁度、原油が120ドル台でそろそろ調整と見られ、ショートポジションが増えてきた途端に、上記の材料たちが"顔見せ興行"みたいに勢ぞろいしたわけで、これではカラ売り筋もたまらず買い手仕舞い。

でもね、原油でも金でも同じだけど、こういうショートカバーで仮に150ドルになったところで、新規の買いが入るかね??Bloody Fridayを見せつけられては、とても宵越しのポジションなど持てないでしょう。せいぜいデートレード(日ばかり取り引き)がいいところ。だって重要人物の発言とかマクロ経済データの出方ひとつで、これほどクルクル、それも劇的に方向性まで変わるのだもの。NYのトレーディングデスクには、ピリピリした緊張感は張りつめるが、荒っぽい価格の動きほどの喧噪感がないよ。カスタマーデスク(対顧客担当)だけが賑やかだ。周囲の観客のほうが興奮状態のよう。

年金マネーが商品インデックスに流入とか語られるけど、筆者の知る年金関係者は、"このボラでは、とても年金受給者の大切なおカネを入れられる状況ではない"と言っているよ。株や債券と独立した値動きによるリスク分散効果が売りの"代替投資"だが、これでは"代替投機"だと。

その商品指数にしても、エネルギー関連が7割以上の比重を占める指数への投資を商品化している組成販売元の投資銀行のアナリストが、派手な"口先介入"で価格を吊り上げているという構造に見えてしまう。speculation(投機)かmanipulation(市場操作)かという議論が出るのも、むべなるかな。

債券ハイイールド部門という稼ぎ頭をサブプライムで失った投資銀行が、商品分野の拡充を競うという現象を見るに、"代替投資"の最大のメリットは、その売り手側にあるようだ。

最後に5月30日付け本欄"ドル高、株高、債券安、商品安"で書いたこと。

今後について筆者の見解。FRB利下げ打ち止め、利上げ転換予測がマーケットで台頭したことで ドルが買われ、金が下がっている。ここまでは筆者の想定内。でも、これはドル金利動向予測に基づく マーケットの先取り。実際にそうなるかは別問題。どうも、市場シナリオの先取り展開スピードが筆者の想定より早すぎる感じ。年央に入り、金利上昇傾向が顕著になったので 年後半に米景気が再び失速するというW字型の見方に立てば、年末にかけて 結局は 利下げ再開せざるを得ないかも という結論になる。(引用終わり)

年末にかけて利下げ再開などと、今となっては能天気に見えてしまうね。ほんの一週間ほど前に書いたことなのに...。想定より早すぎるというより、想像を超えた展開スピードと言うべきか。

そして、前回こう書いた。

米政府の税還付も効いているみたい。一人600ドルの小切手もらったアメリカの消費者がウオールマートに殺到している感じ。同社業績絶好調。(引用終わり)

でも、緊急財政出動というカンフル剤を打つそばから合併症を発症し、体力の衰えに歯止めがかからない。ブッシュ共和党は、ここぞとばかりに減税継続を唱える。マーケットの展開だけから見ればマケイン有利か。

なお 金価格も900ドル回復しています。

2008年