2008年8月8日
グリーンスパンが最近、米国CNBCやフィナンシャルタイムズで最新金融情勢について語っている。その要旨を紹介しよう。
―今回の金融危機は一世紀に1-2度あるかないかというもので、これまでの一過性の危機とは全く異なる。世界経済減速とか騒いでいるが、いくらかでもプラスの経済成長があること自体が驚きと言わねばならぬ。その危機は、大手金融機関破たんの恐怖に深く根ざしたものだ。公的救済で一段落に見えるが、LIBOR(ロンドン銀行間資金市場金利)とか債券不履行スワップなど金融不安を映す指標は、危機以前の水準には戻っていない。多くの銀行が破たんの崖っぷちにあり、公的に救済されるだろう。
―この危機が根源的に解決の方向に向かうためには、とにもかくにも米国住宅価格下落が鎮静化することが必要だ。今年後半には民間住宅在庫も減少するだろうが、それとて現状の住宅需要が持ちこたえることが大前提である。
―救いは非金融機関の企業業績が金融危機にも関わらず持ちこたえていること。世界の株式市場は2007年10月のピークから20%下落とはいえ、金融危機前の2006年水準を維持している。その背景にはグローバリゼ―ションの流れがある。
―金融危機だと絶望的になることは、人間の性である。fear(恐怖)とeuphoria(ユーフォリア)の間を行ったり来たりする。どのような経済のパラダイムも、この人間の性を大きな痛みなくしては抑圧できない。政府の規制などで危機が除去された試しなど歴史的にない。
―金融危機というのは資産価格の異常なバラツキから始まるものだ。今回は資産価格の中のリスクの対価の部分が異常に低く評価されていた。この異常現象はいずれ是正されるべきものであったが、その是正の起こるタイミングがマーケットにとってはsurprise=驚きであった。
―今回の危機が始まったとき、多くの人たちは規制の手が届かないヘッジファンドなどが市場の弱点と考えた。ところが、いざ蓋を開けてみれば最も厳しく規制されている"銀行"が市場の弱点であった。
―危機が生じると政治的圧力で規制がかかりがちだが、それに対しては断固NOと論じ、自由経済の中の市場を守るべきである。経済国際化が進行する中で、アダムスミスの自由主義経済の"見えざる手"はグローバリゼーションの力に置き換わった。その新たな見えざる手が政府の規制に取って代わられようとしている。新興国でもインフレから守るために規制の傾向が見られる。これらグローバリゼーション逆流のコストは高くつくだろう。
とても82歳(だよね...)とは思えない議論の冴えである。この御仁は、やはりタダモノではない。
足元のマーケットでは、米ドルが対ユーロ、対円ともに反騰中だ。しかし、グリーンスパン流に解釈すれば、米経済の実態はそれほど甘くないぜ、ということなのか...。