豊島逸夫の手帖

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ドル防衛のFRB ユーロ防衛のECB

2008年6月11日

今回報道されている一連の米高官為替市場介入示唆発言の意味は重い。異例である。久しぶりである。(もし本当にやれば...)。

しかし、今回の決定的問題はFRBとECBが相反するスタンスを堅持していることだろう。兆マルク紙幣という超インフレを経験したドイツ。そのドイツ連銀のインフレファイター魂を引き継ぐECB。誰がなんと言おうと、今の欧州の物価上昇率3.6%は、ECBが"心地よい水準"とする"2%またはそれ以下"を遙かに超えている。これは、なんとしても許せないのだ。

景気より物価安定を優先させる伝統。そこに政府からの政治的圧力がかかっても、"中央銀行の独立性"を楯に頑として譲らない一貫した姿勢。金市場においても、ドイツの公的金売却が俎上に上ったとき、喉から手が出るほど金売却収益が欲しい政府の圧力を、ついに最後まで拒否し続け、フランス、スイス、イギリスが何百トン売ろうとも、ドイツはついに金大量売却には踏み切らなかった。(結果的に安値で金を叩き売ることにはならずに済んだ)。

対する、FRB。なにせサブプライムの震源地ゆえ、物価と景気の両面の目配りが必要だ。金融危機対応の利下げのやり方も派手である。それにしても不可解と感じるのは、今、なぜ、ドル買い介入示唆??ここに筆者は疑念を感じ、深読みしてしまう。やっぱり、なにか相当やばいことが、これからあるの??ドルの信認にさらに傷がつくようなことが勃発してから、ドル買い介入というのは、いかにも"後手、後手"の印象になるよねぇ...。

やっぱり、リーマン?それとも、UBS??この銀行については、4月22日付け"スイスメガバンクの凋落"で詳述した。その後、米国におけるPB(富裕層向け部門)の活動につき米当局の捜査を受けている。法的和解の可能性が示唆されるが、その結果、顧客の機密維持というスイスの銀行の大原則が崩れる恐れもある。それやこれやで今週月曜日のチューリッヒ証券取引所ではUBS株が売り浴びせられ、一時、売買停止にまでなった。同行幹部が自社株を大量に売却という報道もチューリッヒでは大問題になっていると、筆者のチューリッヒの元同僚が言っていた。

昨日の本欄でも書いたが、サブプライム処理に遅れを取ったのが欧州系銀行だ。
このように見てくると、ECBの庭先にも色々やばそうなことが転がっているのだよね。そして欧州系銀行に何か起これば、そのインパクトは瞬時に大西洋を越えNYも直撃することは明らか。

あれこれ書いてきたが、まとめると、米国高官のドル防衛介入示唆は金融危機再燃の兆しと読める。さらに、ECBも"マーケットが知らされていないことを握っている"可能性がある。事実、今週初めにECBは"金融安定性レビュー=financial stability review"なるレポートを発表している。そこでは、大手金融機関のさらなる追加損失発表が、今後、数四半期に及び続く可能性あり"とも書いている。そして、ECBが用意した緊急融資制度の利用度が、最近、回数も額も増加基調とも述べている。

視点を変えて、民間部門の投資銀行の内情を見るに、行内のスタープレーヤー(稼ぎ頭)や司令塔幹部が、続々、アジア転勤となり、その多くが香港駐在となっている。(ここで残念ながら、欧米投資銀行のアジア部門とはAsia, excluding Japan=日本を除くアジア、という仕切りになっており、良くも悪くも日本は別扱いなのだよね)。グローバルな金融人脈の流れがサブプラ汚染度の低い地域へ向かっていることが顕著。

この動きも深読みすれば、地震警報が近々出そうな気配だから、続々、遠い地域へ避難、ということか。地震警報の難しさは、下手に出すと皆がパニックになることだ。米高官のドル防衛発言は、その警報、第一弾のつもりなのかもしれぬ。

さてさて、金価格は、とにもかくにも足元ではドル高ゆえ、860ドル台まで急落。今日、長々と書いたことを前提にすれば、目先のドル買い、金売り局面は長続きしない。とくに対ユーロでドル高継続は疑問。ドル円は"弱さ比べ"で我が道を行く展開だけどね、これまでも本欄にて繰り返し書いてきたように。

最後に原油だけど、昨晩も7ドル近い乱高下。この乱高下が一番のやっかいなことだ。本当に高値安定と読めれば、腰を据えての代替エネルギー開発なり新規油田開発に長期的に取る組むインセンティブも湧くのだが、いつ暴落するか分らんと言うのでは、"昔の原油低価格時代の記憶"が残り、おいそれと長期コミットなど出来るはずもない。

金の世界でも、この乱高下が問題で、インドの実需が5月に不調であった最大の理由はボラ(価格変動性)の高さ。50ドル程度は数日で動くから、実需家は、おいそれと手出しできない。というか、ビビってしまうのだよね。当然だと思う。金価格水準が高くても高値安定と読めれば、割り切って買いを入れられるというもの。ボラという眼つぶしに惑わされず、いかに視界をクリア―に保つか。投資家専用のサングラスが欲しいねぇ...。

2008年