豊島逸夫の手帖

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洞爺湖が見えない

2008年7月10日

霧で洞爺湖が見えないのではない。主要欧米メディアには毎日目を通している筆者の視界に、洞爺湖サミットが見えてこないのだよ。経済紙は、G8よりバーナンキ、投資銀行への特融措置延長が一面トップに来ているし、一般紙はイランミサイル発射とか、チェコと米国の防衛ミサイル協定締結でロシア側コメント"軍事対応も辞さず"の記事が目立つ。さらにNYのタブロイド紙は、ヤンキーズAロッドとマドンナの不倫騒動でモチきり(たしかに洞爺湖より面白いよ、この話題は、笑)。

今回のサミットの報道体制もつまらなくしているよね。首脳の人間臭さが全く伝わらない。これは当然の結果で報道センターがルスツ。筆者は、ルスツにスキーで何回か行っているが、晴天の日に山頂から洞爺湖を眺めた時、その美しさに感動した。ただし、視覚的には地平線上に浮かぶ山頂のお城という感じだった。物理的に離れすぎ。あれだったら、インターネットの時代、東京に報道センター置いても大して変わらんね。あの山頂ホテルにも泊まったことがある。たしかに素晴らしいお城だったよ。米国大統領ブッシュ氏の送別会にはふさわしいロケーションだ。

日本のメディアもなさけないのは、普段G8関連報道など、まともに取り扱ったことがないので国際感覚がないから、結局、"外国記者の受け止め方"みたいに報道センター内で外人捉まえて感想を聞くという具合。そんな報道は欧米で見たこともない。自ら判断できないことを暴露しているようなもので恥かしくて出来ないだろうね。

個人的な感想は、CO2排出問題には2050年までの長期ビジョンを掲げる政府が、2015年までには間違いなく臨界点を迎える政府の累積借金に関しては、長期ビジョンはおろか中期ビジョンも掲げられないこと。この点は、友人とも話したのだが、結局、国民が痛みを感じるか否かなのだね。温暖化は日常生活で異変を感じる。しかし、国の借金、さらに言えば一般的に"借金"というのは取り立てが来るまでは借りる側が痛みを感じない。糖尿病の症状みたいなもので、ある日、臨界点に達した時、初めて大騒ぎになる。そもそも老齢期あるいはそれに近いひとたちが(自分もそうだから言えるけど)記者会見で2050年のビジョン語っても虚しいよね。正直、自分はどうせ死んでる。どうでも言えるよ。まぁ、子供や孫の世代は生きてるけど。

それこそ海外経済メディアから見れば、日本が抱える切迫したヤバイ問題は温暖化より累積財政赤字となる。中に居るより外からの方が見通しが効くのだね。そもそも暖冬現象のほうが分りやすいから報道もしやすいし、読者、視聴者の理解も得やすい。子供連れの主婦に"心配です"と言わせて、政府の対応が望まれる、と結んでおけば、格好はつく。

さて、足元のマーケットでは、米国のどの銀行が潰れるか、投資銀行とか地方銀行の名前が挙がる。そして、チェコやイランの地政学的要因。それらが原油やドルに影響を与え、金価格に響くという構図。結局、金価格に諸問題が集約され、買い材料もあれば売り材料もあり、結局レンジ内の展開である。

個人的には原油先物や商品インデックスへの規制問題が気になる。それこそ世界中の国民が痛みを感じる問題で、しかも米国は大統領選挙。政治的判断による極端な措置が通りやすい。そうなったときの機関投資家ポジションの一斉手仕舞い手というシナリオも、そろそろ無視できなくなってきた。プロは、そういう"大穴シナリオ"も想定したcontingency plan(いざという時の逃げ方)を考えておくものだ。ポートフォリオのリスク管理と言えば格好はいいが、実行するには、かなりしんどい問題ではある。

2008年