豊島逸夫の手帖

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アリとキリギリスの共存経済

2008年12月12日

ふとしたことでイソップ物語のアリとキリギリスの寓話を読み直したのだが、そこに今のグローバル経済の縮図を見るような気がした。つまり、おカネをため込む国々と、おカネを使う国々で成り立っているということだ。

アリ組のメンバーは、原油輸出国(経常収支黒字8130億ドル、それがGDPに占める比率14.2%!)、中国(3990億ドル、9.5%)、ドイツ(2790億ドル、7.3%)、そして日本(1940億ドル、4.0%)。

キリギリス組は、ダントツで米国(経常収支赤字6641億ドル、4.6%)、次いでスペイン、英国、フランス、イタリアなどの欧州諸国が500億から1000億ドル前後の水準で並ぶ。

この二組の共存関係というのは、アリさんたちは、キリギリスさんたちが派手におカネを使ってくれたおかげで輸出で儲けられ、キリギリスさんたちは、アリさんたちが貯めたおカネを借りることで派手な生活を賄えたということだ。

もし、イソップ物語のように、アリさんたちの貯えがアリ穴の奥深くに退蔵されてしまっていたら、キリギリスさんたちも厳しい冬を越えられなかった。しかし、現代のグローバル経済では、金融技術の発達で、アリさんたちの貯えを キリギリスさんたちが借りるシステムが構築されている。債券市場を通じて 米国債やサブプライム関連債券をアジア中東諸国が購入するというルートである。

しかし、金融危機によりサブプライムルートは閉鎖されてしまった。そこで、米国債ルートに一斉に集中しているのが現状である。

今後の問題は、アリさんたちが、自主的に自分たちの貯えをキリギリスさんたちに融通してあげられるか、ということ。イソップ物語では、"夏の間に汗水たらして働いている間に、君たちキリギリスは遊んでいたのだから当然の報いだよ"とアリさんは見放す。しかし、世界経済が現在の金融危機不況を脱するためには、"君たちキリギリスさんたちが色々おカネを使ってくれたおかげで、 いまの貯えがあるのだから、困ったときはお互いさまさ"という協調の姿勢が必要である。アリさんたちが"勝ち逃げ"しては、結局、アリさんたちも貯えが目減りするだけである。とくにアリさんの貯えの多くが、巨大キリギリス=アメリカ君の借金証文なのだから。

一方、キリギリスさんたちは、借金を国に肩代わりしてもらうか、棚上げにしてもらうかで、裸一貫とは言わないが、やり直す気持ちで臨まねばならぬ。もう借金して(レバレッジかけて)まで人生を楽しむという価値観は捨てることだ。かといって、反動で倹約の美徳に走られても、経済の牽引役=消費が減退するので困るのだ。これがケインズの言う"倹約のパラドックス"。借金しない範囲で、身の丈に合った人生をエンジョイすることだ。

他方、アリさんたちも、おカネを穴の中に貯め込んでばかりではいけない。その貯えを、安くなった株の購入に回すとか、贅沢ではない範囲で人生を楽しむとか、ほどほどにおカネの活きた使い方をすることが求められる。

とはいえ、以上述べてきたことは、あくまで経済原則から見て、かくあるべしという理想論に過ぎない。総論賛成でも、各論になれば、そんなこと言ったって将来の年金は不安だし、株だってどこまで下がるか分からないし、私にはとても"お国のために消費、投資する"などという余裕はありません、というのが本音であろう。ここに不況脱出の難しさがある。

さて、足元のマーケットは、年末を控え、各市場ともにショートカバー大会の様相。
外為市場では、ユーロ売り、ドル買いのポジションの巻き戻し。
商品市場では、原油空売り(ショート)の買い戻し。
金もショートカバー ラリーで、820ドル台まで急騰中。
NY株も、売られ過ぎとの認識で、資源株、金融株が買い戻される展開。
まぁ、身辺整理で身の回りをきれいにして新年を迎えようというわけか。

金に関して今の実態は、先物買い戻し、現物売りという、これまでとは正反対の内部構図である。今年前半に1000ドルをつけたときにはインフレ懸念下のユーロ高(ドル安)であったが、今回はデフレ懸念下のユーロ買い戻しという市場環境の違いがある。

金は800ドルを維持しているほうが不思議なくらい。プラチナに関してはビッグスリーの惨状を見るにつけ、金に比しディスカウントにならないほうが不思議なくらいである。

2008年