豊島逸夫の手帖

Page523 金融市場は陰の極、金市場は急騰

2008年7月11日

金価格はレンジの高値圏まで急騰。950ドルに強い上値抵抗線あり。

高まる一方の米国金融不安がドル安(対ユーロ)を誘い、イランの地政学的要因が原油急反騰を誘い、ドル安、原油高が金急騰を誘う展開。

NY金先物残高は、先週時点で106トン急増の583トン。一時は400トン台にまで減少していたが、今週は600トンを超えているだろう。回転は効いているから、買いは膨らみやすい状況。

NY金ETF残高も一時は740トン台にまで減少していたが、ここにきて817トンにまで急増中。先物の短期買い、ETFの長期買いともに拍車が掛った矢先に、イランがミサイル飛ばし、政府系金融機関の経営不安の噂が出た。

米金融不安の噂が絶えない。例のリーマンは昨日、債券大手のピムコが取引縮小の噂で一時株価が前日比マイナス20%まで売り込まれたが、その後、ピムコの債券王と言われるグロス氏が、自らNY CNBCに生出演して噂を否定。株価も反騰したが、それでもマイナス13%。いかにマーケットのセンチメントが神経質で"陰の極"に達しているかの一例。

そこにファニーメイとフレディーマックの二大政府系金融機関に経営不安の噂。この二社だけで米住宅金融市場の半分以上を占める500兆円規模のローン買い取り、保証の残高を抱えるから、桁が違う。彼らが発行する債券も米国債並みの規模で"エージェンシーもの"と言われるのだが、暗黙の政府保証付きと言われ、世界中の投資家が"安心して"保有していた。その二社の株価が、前日比、ファニーがマイナス13%、フレディーがマイナス20%。一年前で見ると、マイナス78%、そして86%!ポールセン財務長官とバーナンキFRB議長が揃い踏みで議会証言に立ち、"大丈夫、問題ない"と言っても、マーケットでは"本当かね?ホントにもう隠していることない??"という疑心暗鬼が強まる。そもそも政府が資本増強の救済に踏み切れば、株価は薄まるわけだし。

この経営不安説の根本的原因が治癒されなければ、この種の噂は根治されない。その根本とは、ローンの返済遅延。昨日も米住宅差し押さえ実行件数が前年比三倍で過去最悪の数字が発表されている。ポールセンやバーナンキの話ぶりも、"もう規模が大きすぎて潰せない=too big to failということはないんだよ"という破たん前提のコメントになっている。

さすがに政府系金融機関を潰すことはないだろうが、仮に救済措置取ったとし
ても、政府が救済するというおかしな話。これって、結局は、国民のカネを増税で吸い上げて救済するのか、それが政治的に通らなければ紙幣を刷って帳尻合わせるのか。米国民の間で議論は尽きない。

米国経済の消費のほうは、ウオールマートの6月売上が戻し減税効果でプラス5.8%増と好調。でも所詮一過性。

そして経済紙の一面トップには、イランのミサイル試射のニュースがミサイルの大きな写真入りで来ている。ライス国務長官のトーンもヒートアップ。"米国は湾岸を守るわよ!=The US will defend the Gulf!"

NY株も、午前中はポールセンの議会証言を好感して三桁の上昇を見せたが、午後に入って原油急騰で一時はマイナスにまで急落。その後、戻して引けるというジェットコースター相場。ピークから20%以上の下落により正式に"ベアーマーケット=弱気相場入り"と認定された直後なので、所詮上げても"ベア―マーケットラリー"という冷めた見方。もう一荒れして大底を打つという希望的観測も多いが、この説を今年に入って何度聞いたことか...。

なお、金市場統計では、ワシントン協定の年度末を9月に控え、年間500トンの売却枠が、まだ297トンしか消化されていないとの数字が出た。やっぱり今年も相当の未消化か、9月末にかけて"駆け込み売却"があるのか。例年この季節になると話題になる現象だ。ま、駆け込みもあろうが、どう見ても、残り200トンを2カ月で売リ切る姿勢のある国が見えないけどね。

最後に金価格の今後。筆者は先月から夏相場のキーワードでイランとリーマン(金融不安の象徴)をウオッチとして、米国は"利下げ"さえあり得る経済の悪化の中、年末にかけて4桁へとしてきたが、その出方がちょっと早すぎる感じ。そもそも地政学的要因で上げる相場は一過性とも昔から説いてきたし、金融不安もムード先行の感あり。噂で買ってニュースで売れという類の、回転の速い売買が支配しているマーケットである。アジア中東の現物需要は高値圏で冷え込んでいることも考慮すれば、長期的に4桁への見方は変わらないが、短期的には950ドルから1000ドルへいきなり突っ込み、それが維持される環境ではない。

ページトップ