豊島逸夫の手帖

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余力のある中国、心配なロシア

2008年11月10日

北京からのレポートで、中国は財政、金融両政策の懐が深いと指摘したが、その大規模な財政出動の概要が報道されている。2010年までに総額4兆人民元(1人民元=15円弱)。住宅、交通網、環境などのインフラ整備、そして技術革新に振り向ける。なにせ、2008年前半だけで17兆人民元の財政黒字を計上する国であるから、この程度の財政出動は朝飯前であろう。

税制面でも、付加価値税(これは製造流通各段階の付加価値に対して課される17%の税金で、製品総額に課される消費税とは異なる)の改革に乗り出す。ここでは法人負担が1200億人民元軽減されるという。この問題は中国商業銀行の金販売にも関係する話題だ。というのは、銀行はモノを扱わないので付加価値税の行内処理体制が出来ておらず、これが銀行の金現物販売のネックとなっていたのだ。ここがクリアされると実務的には大きく前進する。

総じて、中国は、世界経済を牽引するほどの力は期待できずとも、自らの経済を賄うには十分の国力はあるね。難儀しているご近所を援助するほどの余裕はなくとも、自前ではやってゆける。まぁ、今週末の金融サミットでは、"俺たちに輸出して貯めまくった外貨準備2兆ドルをなんとか世界金融危機のためにIMFを通じて活用させろ"という先進国側と、"それなら、それ相応の発言権を与えよ"という中国側の折り合いがつきそうにないが。

さて、中国と比較して心配なのはロシア。これまでは、1998年のロシア危機とは状況が違う。資源高の恩恵で5900億ドルの外貨準備の貯えがあるので大丈夫という話であったが、毎月160億ドル近い外国資金流出が続き、10月には5150億ドルまで減少。

1998年のロシア危機の時には、政府が国有企業株を担保に民間から借りまくって、挙句に債務不履行を引き起こしたのだが、今回は民間が公的救済を受け、保有企業株式を政府に引き渡すという展開だ。その公的救済総額2000億ドルはGDPの13%に当たり、G8の中で最悪。他のG8では、金融危機の引き金が住宅関連資産担保証券の価値の劣化であったが、ロシアの場合は年初から75%も下落した株式を担保にした債務が多いことが特徴だ。

経済構造的には、国内貯蓄が少なく、外資依存体制であることが弱点である。このあたりは、北京からのレポートで述べたインドに似ている。そして、15%というインフレ率が、巨額の公的救済資金投入で、更にマネタリーインフレにより悪化する可能性がある。しかも 賃金の二桁上昇に慣れきってしまっている。実質賃金上昇率14%。

オバマ選挙勝利の日にポーランドに接する天領(飛び地)にミサイル配置を発表し、米側のチェコ、ポーランドへのミサイル、レーダー配置に対抗するなど 政治的にも相変わらずのお騒がせ。国際的には中国よりロシアのほうが不安定要素多く、要注意である。

2008年