豊島逸夫の手帖

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初心者向け どこまで下がる金価格

2008年5月2日

金価格が、ついに850ドルまで下がってきました。米国FRBが昨年後半から、サブプライム救済のために、矢継ぎ早に利下げを連発してきましたが、昨日の0.25%追加利下げで、ほぼ打ち止めとなったかな、というマーケットの見方が背景にあります。

というのは、ドル金利が下がることによって、外為市場ではドルがとくにユーロに対して下げ続け、ドルの代替資産としての金が買われてきたのですが、その流れに変化が生じたのです。対ユーロのドルは1.60の安値をつけた後、1.54まで急落。円も大方の外為専門家の90円予想を嘲笑うかのように、104円まで円安ドル高に転じましたね。そこで、いま、欧米市場では長いこと続いたドル安トレンドにも、ついに終焉の時が来たかと議論されています。賛否両論。

それから、グローバルなマネーのフローが変わってきました。これまでは株とドルを売り、金、原油などの商品と(安全な)米国債を買う投資家の動きが顕著でした。それが、サブプラ不安が一服したところで、市場に安心感が広がり、商品と債券に逃避していたマネーが続々、自宅へ回帰を始めたのです。専門的にはポジションの巻き戻し(unwinding)と言います。

さらに、金利を生まない金にとっては、利下げは追い風なのですが、その追い風が止むということになると、市場の盛り上がりは削がれます。

以上の結果、投機的に株から金へ"雨宿り"していたマネーが、金市場を去ってゆきます。金市場の内部構造で言えば、ドカ雪の新雪のごとく積み上がった投機マネーが、雪崩を起こしています。ふわふわした新雪が流れ去ると、後に残るのは根雪。つまり、インド、中国などの実需ですね。彼らは、900ドルから1000ドルでは高すぎて手が出なかったのですが、850ドルにまで来ると食指を動かし始めています。筆者も今回、その中心地ドバイに出張して、かれらの価格に敏感で旺盛な購入意欲を確認しました。金を買いたいのだが、これまでは、とにかく待っていたのですよ。

相場のトレンドを最終的に決めるのは、投機マネーではありません。かれらは所詮ゼロサムゲームです。やはり、下げから上げへの転換点を作るのは需給状況=ファンダメンタルズなのです。投機マネーの動きは派手ですが、最後は実需のボディーブローがじわじわ効いてトレンドが変わってゆきます。投機マネーのワンツーパンチで一旦はロープ際まで追い詰められ、そこからインド、中国の執拗なボディーブロー連発で、じわじわ形勢が変わってゆくでしょう。

いま、欧米の連中は株と金のローテーションという言葉をしきりに使います。野球で先発投手のローテーションとよく言いますよね。出番が順繰りに回ってくるということ。今年のマネー軍のローテーションは、商品、米国債の先発投手と、株、ドルの先発投手と、この2本柱でローテーションが組まれてゆくことでしょう。"商品"が先発ローテーションの一角になり一軍登録されたのです。3Aからメジャーに昇格したと言えるかもしれません。それだけ、球場の観衆(=投資家)から見れば、新鮮味もあるし期待感も高い。セットアッパーの岡島の役割から、先発の松坂の役割への変遷とも言えましょう。

相場の行方ですが、850ドル前後で当面もみ合うでしょう。5月はとくにヘッジファンド決算期で、毎年、決算対策売りが出やすい環境でもあります。下値模索の月、そして850ドルでインド中国の買い出動の需給相場の月でもあります。そのせめぎ合いのなかで、注目の指標があります。それが金ETF残高。欧米長期投資家の買いの状況を探る手掛かりになります。最近は急減している金ETF残高の減少傾向に一巡感が見られるときが、下げから上げへの転換点となるでしょう。

対ユーロのドル相場の反騰が一巡するときも、反転のきっかけになります。

最後にもう一度、昨年から使い続けている、読者にはお馴染みの図を掲げて本稿を終わります。

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2008年