豊島逸夫の手帖

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やっぱり50bp

2008年1月31日

2週間で1.25%もの異例の利下げ。しかも、さらなる追加的利下げに含みを残す。

24時間のライブチャートを見ると、NY時間14:00過ぎのFOMC発表から急騰しているのが分る。28日、29日が、915-930ドルのレンジで動いていたのが、そのレンジを上放たれた様相。とはいえ、高値では"噂で買って、ニュースで売れ"型の利益確定売りが出ている。50bp(0.5%)は、昨日も述べたように織り込み済みだったからね。

短期的反応は別にして、潮流は"ドル金利急低下"という強い追い風を受け、"金利を生まない金"がさらなる上昇を続けることになろう。外為ではユーロが対ドルで1.4850まで急騰(ドル安)。ユーロ金利4.0%、ドル金利3.0%。完全な逆転現象。これは大きな金利差要因だ。いづれECBも黙ってはいまい。

NY株は、好感していったんは200ドル近く急騰したものの、その後、急失速。債券保証業者の格下げの噂が水を差した格好。FRBが"異例"の利下げをするほど、やっぱり何かあるの?との疑念が、依然くすぶっている。

FOMCステートメントの中でfinancial stress(金融市場のストレス)の一言が効いているのだ。サブプライムという進行性癌が転移している病状は重い。利下げはquick fix(とりあえずの出血止め手当)との認識が残る。とくに、FOMCの5時間前に発表されたGDPが予想を大幅に下回る0.6%だっただけに、今ひとつ盛り上がらないのだ。利下げは株式市場には即効性なし。対して、"金利を生まない""ドル代替通貨"としての金には即効性がある。

先週の0.75%緊急利下げは860ドルから930ドルまでの急騰をもたらした。今回は930ドルからどこまで上がるか注目。長期的には1000ドルがますます現実味を帯びる。買いに安心感がある。

面白いのは米国債の反応。10年ものが売られ利回りが3.6%にまで上昇したのだ。これ、昨日も触れた"債券バブル"に対する懸念の売りと見た。こちらも噂で買ってニュースで売れというシカゴ債券先物市場の反応があるよ。対して2年ものは素直に買われている。FRB政策金利(FF)のベンチマークと見られる存在ゆえ、利下げが継続され2%台という流れを先取りしている。イールドカーブはだいぶまともな形に戻ってきた。

なお、FOMCでは、"長期的なインフレリスクは残るゆえ、反対方向への転換もあり"という含みも残している。これは昨日本欄で述べたこと。

まぁ、バーナンキさんも大変だと思うよ。同情する。メディアでは"しゃべりすぎ"と叩かれ、"株安ショックに屈した利下げ"とか書かれ。でも、誰がFRB議長の座に就こうと、原油高(利上げ要因)とサブプライム(利下げ要因)の同時進行の荒れたマーケットをナビゲートするのは簡単な話ではないよ。

マクロ経済のテーマとしては ここまで金利が下がってくると 利下げのリフレーション(景気浮揚効果)に注目が集まる。金利という金融政策手段は効果が出るまでにタイムラグがある。その間を、財政出動でどこまで凌げるか。一人あたり600ドル、夫婦で1200ドルの小切手をtax rebate(税金還付)として各家庭に送付すれば即効性はあろう。それを借金の返済に使うのか、新たな消費に使うのか、黙って貯金するのか、米国民の反応が見ものだ。さらにリフレーションには、"やりすぎ"のリスクも残す。つまり、即効性の薄い投薬を体内に入れすぎて、あとで極端な副作用が出てしまうことだ。過剰流動性がさらに増え、暴れ始めるという症状である。

今週は、あと金曜日に米雇用統計が待っているが、これはただでさえ月ごとのブレが大きく、しかも後々大幅修正されるし、もはや"オオカミ少年"扱いになりつつある。

2008年