豊島逸夫の手帖

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ロシアの原油生産ピークアウト

2008年4月18日

"昨年のロシア原油生産量1000万バレル(日量)が、私の生涯で見る生産量のピークとなろう"。ロシア最大の石油会社ルクオイル副社長Fedun氏の発言が波紋を呼んでいる。ロシアは世界第二位の原油生産国。今世紀に入ってから中国などの需要増を満たすために重要な存在であった。IEA(国際エネルギー機関)の中期見通しでも、ロシアは2012年までに1050万バレルに増産し、非OPECではブラジル、バイオ燃料に次ぐ生産増量が期待されていた。(ちなみに、非OPECで日量260万バレルの増産を見込んでいる。なお、穀物価格高騰により、バイオ燃料向け作付面積を減らす動きも懸念されている。その結果、OPEC依存度が長期的にも高まる)。

さて、ロシアの原油生産ピークアウト予測の背景を探ると、原油埋蔵量の枯渇ではなく、もっぱら、高税率、外資規制などの制度的問題が根源にある。北極圏とか東シベリアには有望な原油埋蔵量が存在するのだ。問題は、その開発生産に対して高率の税金が課せられ、国内の石油企業でさえ、新規開発投資資金をロシア国外に向ける有様だ。原油の所有権を巡る不透明感も重くのしかかる。先月はBP半額出資の原油ベンチャー企業TNK-BPの事務所が"産業スパイ"容疑で強制捜査された。しかし、本当の目的は同社を半国営企業ガズプロム傘下に置くことではないか、と憶測されている。

原油市場全体から見ると、ロシアの例は原油高騰が供給サイドの要因によるところが大きいことを示唆している。70年代後半は、原油生産基地も消費国に近く、地域的にも分散し、比較的容易に開発生産も出来た。ところが、近年は、有望な原油埋蔵地域のサウジやメキシコは外資参入を禁止。東シベリア地域は過酷な自然環境。イランは政情不安。等等、供給サイドに様々な不安要因を抱えるため、米国経済後退による需要減が見込まれても、需給バランス逼迫が予測されるわけだ。IEAの見通しでは今年の世界の原油需要量の伸びは日量130万バレル。対して、非OPECとバイオ燃料による供給増は80万バレル。その供給不足をOPECが増産してくれないと埋められないわけだが、今年1-3月のOPEC生産量は35万バレルの"減産"である。4月も、需要減を恐れるOPECの減産傾向は続く。

このようなサプライショックに敏感に反応して最高値更新を続ける原油価格に比して、金価格は940ドルまで戻したものの、その価格上昇スピードは原油に比しいまいちに見える。世界経済減速=需要減という共通の市場環境の中で、金の供給サイドには原油と異なる大きな点があるからだろう。それは二次的供給源、あるいは金の地上在庫とも言われるリサイクル、環流の存在。歴史的に採掘された16万トン近くの金が腐食せずに地上のどこかに眠っている。それが価格高騰に誘われ、市場に売り戻される。消費されれば消える原油にはない、金の供給サイド特有の現象だ。

なお、原油は液状なので掘れば噴出してくれるが、金は固形ゆえ、そうは行かない。海底に有望な金鉱脈があっても、金価格が暴騰でもしない限り、原油海底油田のようには採算が取れない。長期的には金の供給サイドの制約がジワリと効く。

このように見てくると、金と原油の供給サイドの景色はかなり異なるのだ。

さて、足元の金価格は、徐々に水準を切り上げ940ドル台まで来た。その過程では、ストップロスとか中央銀行の売りと思われるような、まとまった売りが(とくに930ドルでは)散見された。それでも、ドルユーロが1.60の大台に近づくドル安と原油高に支えられ、売りをこなしてきた。1回目の1000ドル到達の過程で見られた急ピッチの上昇に比し、今回は調整局面をこなしながらの はるかに"まともな"上げ方である。まだ、実需を伴う価格水準とは言い難いが、マーケットが徐々に高値慣れしている過程と見る。

2008年