豊島逸夫の手帖

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汚染米は冷凍庫に長期保存

2008年9月29日

テレビ画面に映ったポールセン財務長官のこけた頬が全てを物語っていた。あのアメフトでならしたスポーツマンの面影は薄れ、徹夜で議会と折衝を重ねた心労が滲み出ている。くんずほぐれつの政治的駆け引きの結果、なんとか妥協策がまとまり、これで公的救済プレイオフ一回表のプレイボールが宣言された。

救済の仕組みは決まったが、最大の問題は、それで、幾らで不良債権を買ってくれるの?ということ。バーナンキは、"満期まで持ち切りの場合に想定される価格"を示唆している。現在の市場で売却した場合の"時価"ではない。

その背景には、満期までには米国経済もなんとか持ち直して、不動産価格も底を打ち、買い取った政府もそれほど損失を蒙らないどころか、値上がりで差益も享受できるかも、という"楽観的前提"がある。

しかもFT紙などを読んでいると、CDO(資産担保証券)という、ミックス定食みたいにもろもろの債権を盛り込んだメニューの一部に"汚染米"が含まれているらしい、ということである。良質な債権(良質米)と価値が毀損した債権(古米)をミックスしているのだが、その後者の割合が、蓋を開けてみれば、かなり大きいのではないか という疑念が残るのだ。

いずれにせよ今回の米国公的救済策は、腐った肉を冷凍庫に保存して、悪臭だけは漂わないようにしようという発想である。長時間、冷凍庫に保存すれば腐食が除去され、再び売りものになるということはない。

さらに、古米の中に汚染米まで混入し、品質をごまかして、あるいは汚染米混入の事実を知らずに販売していた業者の幹部の年俸が億を超えるというのでは、米国民も納得できまい。

それから、巨額の不良債権を抱え込み膨れ上がったFRBのバランスシートも心配である。米国政府が恐れる最悪のシナリオは、一時の日本国債みたいな、米国債の"格下げ"。米国のカントリーリスクさえ意識されるようになると、巨額の米国債を保有しているアジア中東の機関投資家、公的機関の間で"米ドルの取り付け騒動"が起きる可能性があるわけだ。

それを未然に防ぐ手立てとして、主要国の"協調利下げ"というシナリオもあるよ!!

いずれにしても、米国民感情は収まらず。英国でも、英国教会がヘッジファンドの空売りを"銀行ギャングの略奪行為"と非難したが、実は、その教会が大量に保有する金融株が空売り投機家に貸し出されていたとか、空売りヘッジファンドで運用されていたとか、洒落にならない話になっている。

そしてWAMUの破たん。9月12日付け"良いドル高 悪いドル高"に、こう書いた。

昨晩のNY株式市場は、リーマン、ワシントンミューチュアル(WAMU)、AIGの3社の材料の出方次第で乱高下した。この3社は、それぞれ投資銀行、預金貸出の商業銀行、そして保険会社である。金融不安拡大の象徴的現象だ。リーマンは4ドル、WAMUは2ドルの株価の金融機関となってしまった。(引用終わり)

この時、金価格746ドル。金市場内には、商品バブルもこれで終焉という弱気論が台頭していた。でも、筆者の友人ユダヤ系ディーラーは、この時、金をせっせと買っていた。そして現在870ドル。せっせと売っている。噂で買ってニュースで売れを地で行っているのだ。

筆者が本欄で繰り返し述べてきた、欧米プロの海千山千とは、こういう人たちのことなのだよ。

今朝は京都のホテルオークラ。これから2日間、貴金属国際会議が開催される。今回は、とくに米国の投資銀行、ファンド関連の出席予定者が続々事前キャンセルで事務局が頭を抱えていた。中には、消えてしまった銀行名の名前が虚しく残っている。

さて、これから講演の出番なので行ってきます。英語のパネルだけど、持ち時間20分程度だから、(日経プラスワンセミナーで3時間オンステージで鍛えられた筆者には)楽勝(笑)。日本の金市場の現状などについて語ってくれとの主催者側からの要請です。

2008年