豊島逸夫の手帖

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原油と金の市場データの実態

2008年5月23日

海千山千のマーケットのプロから見て、一番"おいしい"市場は、情報、データの不十分な市場だ。それがまさに原油であろう。

中国の需要増加と言われる。でも、中国が、自国の需要量を発表しているわけでもないし、民間に信頼できるデータがあるわけでもない。結局、アナリストの"推計"に頼るしかない。これが、マチマチときている。

同じ中国の供給サイドにしても、パパママに毛が生えた程度の石油精製所が全国に山とある。さらに、政府の備蓄もあると言われるが、その実態など発表されるはずもない。

ロシア、インドなどのデータも似たりよったりである。そして、OPEC加盟国の生産量"申告"が、これまたキツネとタヌキの化かし合いときている。生産割り当て量を上回って生産している国が、正直に申告するだろうか。そのデータをチェックする監視システムなど無い。要は申告ベースである。また、OPEC諸国の新たな油田開発、枯渇の実態なども把握できない。

その結果、マーケット予測の根拠として引用されるデータはごく限られたものになる。EIAの米国民間在庫統計がその例だが、これとて市場全体から見れば、氷山の一角のそのまた一角である。

そのほかには、数人のブティック系調査会社が、タンカー トラッカーと称して、OPEC各国の輸出量を通関書類とかBLの類を(どこでどう集めるのか分らないが)入手して、原油輸送の面から推測を試みている。

このようにデータ不備の市場こそ、投機家が最も好む市場。誰がなんとでも言えるし、言った者勝ち。大手投機家は色々な噂を流すが、それを否定することが不可能なのだ。その結果、"市場関係者"の相場予測が70ドルから500ドルまで、ばらつく。

その点、金の市場データは、GFMS社(ロンドン)が30年来毎年発行している世界需給データを細部にわたって確度の高い数字で公表している。それにWGCも協力して、需給四季報という形で3か月ごとの速報値も発表されている。供給サイドにしても、大手鉱山会社は欧米株式市場に上場しているからディスクロージャーのルールは厳しく守られる。唯一、中国の生産量に不透明性は残るが、その誤差も年間生産量で260-280トンのレンジにばらつく程度だ。需要サイドも金地金通関統計とか宝飾、ハイテクメーカーの消費量はかなり高い確度で把握できる。

投資の分野で欧米の投資需要量が掴みにくいことは事実。アジア中東の現物金投資はモノの流れで計測できるのだが、欧米のように金融商品化してくると 複雑化しているゆえに追い切れない。(ただし、金ETFは上場ルールにより毎日残高が公表されている)。そこで、GFMSは、世界の需要と供給をボトムアップで積み上げたうえで、説明できない需給の差を"implied investment=推測投資需要"として、これを欧米の投資需要量のproxy(代表変数)と断ったうえで使っている。

こう見てくると、原油と金の市場データの質には相当な差があることが分かると思う。金より原油の値動きが遙かに大きい原因の一つに、案外こういう実態もあるのだ。

ところで、昨日、今週末のセミナーで中東関連の話題として"砂漠の中の世界最大のアルミ精錬施設"を挙げたのだが、今日の日経朝刊国際面のドバイ支局発の記事に先越された(笑)。読んでみてください。なお、このエミレーツアルミ(略称EMAL)のCEOは、ロシアのアルミ会社からリクルートされたロシア人なのだ。ここでも外人の助っ人が活躍する中東。

2008年