豊島逸夫の手帖

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カントリーリスク顕在化

2008年10月27日

先週の金曜日の相場は凄かった。"号外"を書いたのが、日本時間夕方であったが、その直後、ロンドン金価格は680ドル台まで急落し、ドル円は91円台にまで急騰した。

しかし、その後はNY時間では金が反騰に転じた。終わってみれば結局730ドル台。外電に流れるアナリストのコメントは、"株安の中で金急騰"である。24時間でこれほど市場のセンチメントが振れるのも珍しい。

また、金曜のNY株式の寄り付きも異様な雰囲気で、ベテランフロアートレーダーをして、これまで経験したことのない不気味な感じと言わせたほどであった。アジア株式暴落を引き継ぎ、SP500などは寄り前でストップ安が予想されるほどで、皆が"寄り付きの暴落"に備え、シートベルトを低くきつく締めて臨んだのである。

そして日本時間夜10:30の寄り付き。ダウ30銘柄全ての値がつくのに15分くらいかかったろうか。結局前日比400強の下落でひとまず値が揃った。ダウ800以上の下げを覚悟していた市場にとっては、予想外の"落ち着いた"下げぶり。

ここで興味深かったのは、"下げきらない"ことで"失望感"が流れたことだ。どうせ下がるのなら暴落してくれれば、そこで大底の感触(capitulation)が掴めたのに、この程度では"蛇の生殺し"状態がまだ続くというセンチメントである。相場のプロの発想としては理解できる。

さて、今週はFOMC。50bpの利下げを織込む。それに対してECBも再利下げに踏み切るか。今日発表の独景況感指数の出方が注目される。ドルとユーロの金利差によってはユーロ安トレンドに変化の兆しが見えるかもしれない。いまやユーロと金は一蓮托生といっても良い。

円一人勝ちはまだ継続中。従って10月23日付け本欄"円のひとり勝ち"に書いた市場環境も変わっていない。円建て金価格の急落は、諸々の下げ要因が一時点に集中するというまことに珍しい状況の中で示現している。日本国民としては、"円が安全通貨として買われる"というような表現は片腹痛いのではあるまいか。どうみても日本経済が構造的に評価されて円が買われているとは思えない。円高による日本人の購買力の突然の上昇は、神様が日本人に下さった"期限付き輸入品バーゲンセール"じゃないの?セール期間はせいぜいクリスマス前までかな...。

週末に両替商にドル、ユーロ紙幣を求める人たちが列を作ったらしいが、普段外為など考えたことのない"日本人旅行者"たちが、今のうちに外貨を購入しておく反応は意外に当たっているような気がする。プロや準プロの投資家に比し、足元の相場の流れに巻き込まれていない分だけ、冷静で自然な判断が出来るものだよ。マーケットは、"民の声"に謙虚に耳を傾けるべきであろう。

なお、アイスランド、ウクライナ、ハンガリー、韓国などのカントリーリスク(或いはソブリン リスク)が顕在化している。日本国債とか米国債の格下げなども絵空事とは言えない。それほどに今の円高、(対ユーロの)ドル高の基盤は脆い。

2008年