豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 核拡散懸念より資源懸念
Page496

核拡散懸念より資源懸念

2008年6月2日

先週インドネシアがOPECを脱退したことは、象徴的な出来事であった。すでに、2005年の時点で原油純輸出国から原油純輸入国へ転換していた同国は、現時点で原油価格下落を望む立場。もはや、OPECと利害を異にする。

同国はOPEC創設時からのメンバーであり、国際原油メジャーの"植民地的支配"から脱却するための産油国カルテルの発想に同調した。しかし、国有化された原油生産分野に対し、新規開発投資が進まず、1976年を境に同国原油生産量は減少の一途。現在では"限界的生産者"となっていた。この"国有化"の弊害はインドネシアにも止まらないということで、この一件は"象徴的"な出来事なのだ。

そのインドネシアに目ざとく注目し、歩み寄った国がある。イランである。インドネシア国内に原油精製施設建設のため60億ドルをポンと融資した。対して、インドネシアは国連イラン制裁決議を"棄権"。イラン大統領をして"brother=兄弟"と言わしめる。インドネシア大統領も"イラン核開発は平和利用目的であり政治的材料として利用されるべきではない"と発言。この2国間の歩み寄りも象徴的だ。

原油、天然ガスという"資源"を外交的武器に、少しでも"お友達"を増やそうとするイランの動きについては、すでに5月13日付け本欄"天然ガスが取り持つイランと欧州・インドの仲"で述べた。

とにかくイラン大統領はマメに海外出張し、"資源"を餌に"友好の種"を蒔いている。とくにシリア、ベネズエラ、スーダン、ベラルーシ、トルクメニスタンなど、米国から見れば"要注意リスト"に載るような国々をわざと選択しているかのようだ。お土産も忘れない。ベネズエラには10の小麦工場建設資金提供、そして前述のように、インドネシアには原油精製所建設資金として60億ドルをポンと融資。"原油高"という"タナボタ"を最大限に利用している。

彼らの胸算用。"レバノンで紛争が悪化すれば、原油先物市場の価格は3ドル上がるだろう。すると、我々の懐には30億ドルが転がりこむ。レバノン国内のヒズボラに5億ドル支援したって安いもんさ。"振り返れば、ブッシュがイラクに戦争を仕掛けたとき、内心"シメシメ"とほくそ笑んだのかもね。

イランは上海協力機構(SCO)のオブザーバーであるが、この3月に正会員国申請手続きを開始した。中国、ロシアを中心に政情が不安な中央アジアを共同で管理しようとの目的で組織された同機構は、軍事、エネルギー権益を米国支配から守るための"非米組織"とされる。("反米組織"とまでは称していないが...)。

中国、ロシアが世界第二位原油、天然ガス埋蔵国イランのSCO入りに抵抗感を示していない事実は重い。米国覇権の一国集中から多極化への世界の潮流はしばしば語られるところだが、このイランを巡る動きも、原油高がその傾向を助長している例と言えよう。

本当にブッシュさんはアホなことしたね。イラクにチョッカイ出したばかりに原油高を招き、結局、米国覇権に抵抗する国々の為に"オーンゴール"を蹴る結果になってしまった。そこまで読み切れなかった外交感覚の欠如。所詮、テキサスの原油権益温床の中で育った大統領には そこまで読みとおす国際感覚が無かったのだね。

原油高が米国一国覇権の構図をますます弱体化させ、ドル凋落を加速させる。ドル不安の根は深い。

2008年