豊島逸夫の手帖

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株は見切り売り、金は利食い売り パート2

2008年1月22日

昨年8月17日付け本欄"リスクの連鎖"にこう書いた。

運用方法はコンピューターのプログラムによる手法。今回は、そのソフトウ エアの想定外の株価変動が生じた。そのような突発的損失が生じると、プロ グラムは自動的に他の保有銘柄を売却して損失を補填すべく指示を出す。か くして"健全な銘柄もとばっちりの売りを浴びる"という現象が生じる。

昨晩は、金市場へも、そのリスク連鎖が波及した。650ドル台へ急落。円 高も進行し、円建て金価格は大幅な下落となる。金市場の需給ファンダメン タルズは変わらないのだが、リスクマネーの撤退のなかで、投機的金買いポ ジションも手仕舞われるというお馴染みのパターンだ。

今回は金ETFも残高が630トンから622トンまで急減しているところ に投資家の狼狽の様相がうかがえる。

(引用終わり)



その8月17日のFTは"株安、金安の連動で、金のヘッジ機能は失われた"と書いた。その後、株が低迷を続ける中で、金が急騰したことはご存じのとおり。いまや、FTは社説で"Gold is the new global currency."と持ち上げるまでになった。

そして、今回の世界同時株安。全く同じ現象が再現しつつある。金ETF残高も、この1週間で30トン近い減少。400ドルから買い始めた人たちゆえ、リスク回避の動きのなかで、870ドルで利益確定の売りを出せば、かなり株の損失を補てん出来よう。

商品指数で運用するインデックス投資も、金の下げを加速させている。リセッション懸念が米国から中国に飛び火し(サブプライム汚染地域は中国にも拡大)、ディカプリング論にも懐疑的になると、商品セクター全体が売られ、マネーとの二面性を持つ金も、商品インデックスに組み入れられているので同時に売られる。

昨晩に関しては、外為市場でユーロが売りの集中砲火を受けて1.44の水準まで急落したことも金安に拍車をかけた。では、ユーロがなぜ、それほど売り込まれたかといえば、先日紹介したECB首脳の"欧州景気にもdownside risk(下振れリスクあり)"との報道がきっかけで、欧州景気に懸念が生じたこと。そこで、ユーロ買いポジションの中で投機的に積み上がったポジションは、これもリスク回避の動きの中で、一斉に手仕舞われた。

日本国内の報道では円高=ドル安とされているが、欧米市場の昨晩の認識は"ドル高"である。よって金は売り。これまでの勝ち組み、ユーロと金が、同時に売られた。

一方、8月17日時点と比較して金市場の状況で異なる部分もある。今回は900ドルを達成した直後ゆえ、すでに市場内では一服、とりあえず利益確定の自律反動の動きが出始めた矢先であったこと。そこに、世界同時株安が重なり、益出し売りの波が加わった。調整局面に入ったわけだが、株式市場に漂うような悲壮感、悲観論は薄い。これで、金の上げも終わり、というような論調は、一部のタブロイド紙だけである。

株は売られすぎ。アンダーシュート。金は買われすぎの反動。Oversoldのマーケットにもoverboughtのマーケットにも早晩理性が戻る。

金に関していえば、長期上昇トレンドからかなり上方に乖離した動きが、巡航速度の上昇軌道に修正しつつある段階である。下値模索。長期保有派にとっては、株も金も買い場探し。三連休明けの今日のNYに注目しよう。

2008年