豊島逸夫の手帖

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金現物価格史上最高値

2008年1月4日


昨年末から欧米金市場の2008年に向けての不気味な胎動を伝えてきたが、新年相場初日に早くも噴火した。835ドルを起点に860ドルまで一気に急騰。さらに3日には870ドル寸前にまで上がる局面も。第2弾ロケットが点火し、成層圏を脱出した感じである。この高度まで来ると過去の経験則となるようなベンチマークは無い。海図なき航海となり、"青天井"とも言える。まずは上値を955ドルと見る(昨年12月28日付け"2008年金価格見通し"参照)。ただし、"海図なき航海"ゆえ、船の揺れ(価格変動性)もはんぱではなくなる。こんな棒上げが続くはずもない。


原油は100ドル達成。サブプライムの実体経済への波及=米経済原則懸念=FRB利下げ継続=ドル安。サブプライム発の金融不安に触発された質への逃避買いが米国債(10年もの3.89%!)、スイスフラン、(実物資産としての)金に波及。金利を産まない金に、利下げは追い風。ドル安も当然ドルの代 替通貨としての金買いを誘発する。さらに、ブット暗殺という全く想定外の新たな地政学的リスクも"意外性"という意味で効いた。


加えて、NYのディーラーが特に重視していることは、世界第三位の金鉱山アングロゴールド アシャンティー社の新CEOが2008年に300トン強の現有ヘッジ売りポジションを解消するとの方針。通常、ヘッジ売り買い戻しは"事後発表"なのだ が、今回は"事前予告"。これで2008年の金需給には300トンという中国一年分の金消費量に匹敵する規模の買いが新たに加わったことになる。彼らは、 押し目を狙って買い戻しを入れるから、ディーラーの立場からは買い安心感がある。逆にショートは怖くて出来ない。


リスク要因としては、米景気後退懸念及び価格高騰が実需に与えるマイナスの影響(負の所得効果と物価効果)。リサイクル還流増。マクロ経済要因としては、景気後退と物価上昇の組み合わせ(スタグフレーション)の可能性もちらつく。ただし、これらのリスク要因は即効性に欠けるので、当面は買いのモメンタム(勢い)が圧倒的に勝る。仮に米国がリセッションに陥っても、商品としての金需要は減少しようが、マネーとしての金需要(金融不安に起因する質への逃避買いとかドルの代替通貨としての金買い)が金ETFなどを通じて増加する構造となっている。その金ETF残高は(筆者も驚いているが)800ドル以上でも増え続けている。株、債券からの逃避資金の格好の受け皿となっているのだ。


最後に忘れてならないのが、ドル安の円高への波及。ここのところ、世界的ドル安の流れに出遅れ気味だった円が急速に値を上げてきた。その結果、円建て金価格上昇はかなり相殺される展開だ。とはいえ、ドル円の金利差は縮小しているものの、4%の絶対的金利差は厳然として存在し、円買いにブレーキをかける。対して、ユーロとドルの金利差は今やほとんどゼロに近い。ゆえに、ドル安の波はユーロに強く押し寄せ、円には金利差の防波堤でかなり食い止められる。 巷間伝えられる超円高の可能性は極めて薄い。その手の本も書店に並ぶが、出版社の売らんがためのタイトルには気をつけよう。


さて、この動乱相場を考えるセミナー(WGC単独主催)を1月19日東京(丸ビル)、1月27日大阪(テイジンホール)で開催します。昨年もそうでしたが、WGCセミナーのときは新高値更新というジンクスができてしまったかのようなタイミングです。今回は、今朝の日経朝刊3面にも商品関連記事(署名入り)を書いている志田富雄編集委員にも援軍をお願いしました。金に限らず、商品価格上昇全体にわたってその仕組み、見通しなどを語っていただきます。記事の限られた文字数では尽くせないところを詳説します。第三部では、すっかりお馴染みになった日経ブロードバンドニュース キャスター池崎美盤さんも交えて恒例本音トークです。ちなみに、志田さんと池崎さんは同ニュースの日経朝刊解説の相方同士でもあります。
詳細は、日経マネーディジタルのセミナー案内に今日中には先行発表。
www.nikkeihome.co.jp/gold (現在公開されていません)
その後、7日(月曜日)の日経夕刊に一般告知します。

2008年