豊島逸夫の手帖

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サブプラデフレから資源インフレへ

2008年5月20日

四川大地震の救援に向かった日本隊は、ダム決壊の恐れあるとして撤退を余議なくされたとの報道。同地域では17のダムが今回の大地震で毀損したという。となると、水力発電供給は減少し、代替エネルギーとして原油の輸入が増える。という連想で、原油価格高騰の材料が次から次へ出てくる。ブッシュ自らサウジの首都リヤドに乗り込み、直談判でサウジの日量30万バレル増産決定のコミットメントを取り付けた形だが、マーケットは売り材料には反応薄。実はこの増産も意図的にブッシュとの会議後にサウジサイドが決めたもの。そうとは知らず、米国政府報道官はいち早く"リヤドでの会議でとくに進展なし"と記者団にブリーフィングしてしまった。その直後にサウジの発表。ブッシュも面目丸つぶれである。これはサウジの外交的駆け引き。前日にブッシュはパレスチナを軽んじ、イスラエルを持ちあげる内容の演説を行い、さすがにサウジ内部でも一方的との批判が噴出した矢先だったのだ。親米派とアラブ諸国から揶揄されがちなサウジのせめてもの外交的意地の表れか。外交交渉の裏を垣間見た感じだ。

それにしても、原油の派手な値動きが唯一の例外で、他のマーケットは株も外為も(例年大荒れの)5月にしては気味悪いほど静かなことよ。例年、決算期で大騒ぎするファンド勢も、サブプライムで痛めつけられグゥの音も出ないようだ。金融危機の峠は越したとはいえ、彼らのポートフォリオの20%がキャッシュだという。(通年であれば、せいぜい4-5%)。質への逃避で米国債に駆け込んだマネーが、社債やコマーシャルペーパーに戻りつつあるものの、銀行団のファンドへの融資は期間が短縮され、まだまだ信用収縮の症状に本格的回復は見られず。

今朝の東京地方は台風の大雨であるが、午後は晴れに回復の天気予報。このような一過性の嵐なら、雨宿りで凌げる。でもこれから本番を迎える梅雨の時期になれば、しばらくは外出もママならぬ。ジメジメしたマーケットで家に籠りがちな(ポジション取りたがらない)地合いが続きそう。今回のサブプライム危機の最大の特徴は、長期にわたりジワジワ被害が拡大していることだろう。ブラックマンデーとかLTCM大型ヘッジファンド破たんの時のような急性の症状とは対照的で、へたすると慢性化しかねない病状だ。

このように見てくると、サブプラデフレと資源インフレの挟間に置かれた世界経済の実態が浮かび上がる。その進行過程を映す鏡が米国債のイールドカーブだろう。(ここからは中級編の話になります)。

3月の金融危機のピークから2か月経った今、米国債の利回りは2年もので1.5%以下から2.5%近くへ1%も急上昇。10年ものも3%半ばから4%近くまで上昇した。これは、直接的には米国債への質への逃避が弱まり、サブプラデフレの懸念が収束しつつある証拠である。しかし、同時に、10年ものの利回りが上昇していること、そしてイールドカーブの角度が立っていることは、投資家のインフレ期待感が強まったことを示唆している。

サブプラデフレから資源インフレへ。FRBのスタンスも柔軟な対応を迫られる。

なお、オプションのブラックショールズ モデルによる確率は、9月までにFRB利上げ転換を20%と見込み、マーケットは、ぼちぼち織り込み始めているそうだ。

2008年