豊島逸夫の手帖

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EU圏に津波警報発令

2008年10月1日

筆者が昨日の本欄で金に関して警戒警報を発令したのは、京都国際会議にて、欧州勢の多くが"次は俺たちだ"と言っていたからだった。それが金売りにどう繋がるかというと...。

今週の米国金融危機第二弾はマグニチュード7のインパクトがあったが、米国(震源地)から大西洋を渡って津波が対岸の欧州に向かって進行中だ。欧州勢が、これから乱気流に巻き込まれそうということで、シードベルトを低く強めに締めている。

米国はいち早く最大級の地震に見舞われ、いまやその復興対策でおおわらわ という段階なのだが、対する欧州は、まだEU全体としての地震対策案さえまとまっていない。ここが、複数の国々の連合なのでアクションが遅いという弱みだ。

今回の国際会議でも事前キャンセルが多かったが、そのリストを見ると、リーマンなどの名前も虚しく見られるが、大手金融機関の欧州部門が多い。国有化されたフォルティス銀行などは、当初はスピーカーとして名前を連ねていた。行き詰まった例のオスプレファンドも講演者の予定だった。

すでに復興策に入った米国、これから津波が襲う欧州。

(今日は、これからUBSの名物アナリスト、ジョンリードと対談するのだが、彼から面と向かってはっきりと、欧州はやばいぜ、と言われると説得力ある。ちなみに彼は今回のスピーカー人気投票で断トツの首位に選ばれた。)

この欧米の温度差が、昨晩の外為市場では、急激な対ユーロのドル高進行となって顕在化した。金市場では、これが売り材料として、金融不安の買い材料を上回った。かくして30ドル以上の急落で振り出しに戻る。

金融不安―買い材料
原油、商品安―売り材料
ドル高―売り材料

この3つの変数からなる三連方程式が今の金価格だ。

米国金融安定化法案も、案の定、政治的妥協の模索が始まり、NY株は急反騰。昨日も述べたけど、ウオール街とメインストリートの"両方"の問題になっているから政治的に放置できるわけがないでしょう。色々な修正案の議論の中で、 筆者の注目はmark-to-market(=時価会計)を変えるべしとの声が日に日に強まっていること。

9月29日付け本欄"汚染米は冷凍庫に保存"に、こう書いた。

バーナンキは"満期まで持ち切りの場合に想定される価格"を示唆している。現在の市場で売却した場合の"時価"ではない。
その背景には、満期までには米国経済もなんとか持ち直して、不動産価格も底を打ち、買い取った政府もそれほど損失を蒙らないどころか、値上がりで差益も享受できるかも、という"楽観的前提"がある。(引用終わり)

満期まで持ち切り(hold-to-maturity)という評価法は、とにかく先送り策である。政治的には、選挙を控えて、選挙民の当座の痛みを回避できるので主張しやすい。

さてさて、本欄の読者諸氏は昨日、経済有事の金だと慌てて手を出した方がいなかったことを望む。(人間の欲は執拗だから、無視して、はまった人も必ずいるとは思うけど。これが人間の悲しい性)。筆者のNYユダヤ人ディーラーは、昨晩もせっせと利益確定売りに走ってました。(でも表向きのプレスコメントは強気論調。よくやるよ...)。

今回は京都に異例の四泊も滞在。とはいえ、ほとんどホテル内で会場の4階と会議室のある5階を行ったり来たりで終わりました。実は、年末に日経から出版する本の執筆も締切が迫り、ダウ777ドル安のオマケまでつき、この72時間で睡眠時間は6時間程度。疲れたぁぁ。

関西には10月11日に日経プラスワンセミナーでまた戻ってきます。

プラスワンセミナー東京会場は500名で埋まり、アンケートは462名の回収があり、皆さんの熱気がひしひし伝わってきました。とくに、コメントで皆さんの圧倒的支持、共感の感想を読んで、ほんと、嬉しかったですよ。なんとか冥利に尽きるというやつですね。

2008年