豊島逸夫の手帖

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金融サミット後のマーケット

2008年11月17日

昨日の六本木ヒルズでのWGC単独主催セミナーは、目一杯椅子席を入れ込んだので、結果的にステージからは参加者の皆さんとの距離が近く感じられました。応募者の300名近くが当選から外れてしまう心苦しい状況だったので、ここに昨日の講演とトークの主なポイントをまとめておきます。

―金融危機後のマーケットは、当局並びに社内のリスク管理が厳しくなるので売買の流動性が減る。投資家もリスク取りたがらないし、プロはプロでリスクを取ることを制限される。結局、バランスシートの膨れ上がったFRBなど公的部門がリスクテーカーになる。市場の流動性が減少することは、価格の短期乱高下が常態化しよう。値は上にも下にも短期に相当飛ぶ状況が続く。その中で投機的売買が減るということは、需給のファンダメンタルズがこれまでよりも材料視される局面が増えよう。ちょっとした需給要因が思わぬ価格変動を呼ぶ。例えば、IMF金売却など。

―金融危機後のマクロ経済は、一言で言って"縮小均衡"と見る。世界的景気後退の波の中でドーハラウンドが決裂したままということは、自由貿易による"拡大均衡"の道が断たれたことを意味する。その中で各国がパイの奪い合い=自国通貨安による輸出増を願い、他国を踏み台にして自国は生き残ろうとする近隣窮乏化政策が幅を効かせる。BRICsの中でも、中国はマシなほうで、インドは黄色信号、ロシアには赤信号がともり、国別格差が広がる。

―金融危機後の国際通貨制度は、結局、ドルに替わる国際基軸通貨が見えてこない。国際協調に基づくシステム=IMFとかSDRなどが継続的にうまく機能した試しがない。金本位制はありえない。中東地域で金が一つの決済通貨になる可能性はあるが。

米ドルは様々な問題を抱え、信認の薄い通貨であるから、ドル離れ現象は続くが、それでもメインの通貨はやはりドルである。例えば、中国の外貨準備は2兆ドルに迫り、その65%から70%がドル保有とされるが、その比率を50-55%に落とすという通貨ポートフォリオのリバランスは進行しよう。しかし、ドルが50%を占めるというドル依存の構図は変わらない。ドル価値が下がって困るのは中国自身である。

―金価格は5年の長期で見れば上昇トレンドは不変。しかし、ここ2年間の上昇が急ピッチであり、このまま、来年(2009年)も引き続き急ピッチの上昇が続くことを期待すべきではない。来年は長期上昇トレンドの中で調整の年になりそう。

―(ここは昨日 触れるのを忘れましたが)為替について。ドル円は90円から110円まで、何でもありの1年になりそう。つまり、これまで本欄でも繰り返し述べてきたように、ドル、ユーロ、円の弱さ比べの構図は変わらず。不等式で云えば、ユーロ<ドル<円という足元で流れの基盤は脆い。この三通貨が三つ巴で抜きつ抜かれつのレース展開になるから、円高、円安 交互に示現する。今年同様、ドル円が10-15円くらいは、アッという間に値が飛ぶ。長期的ドル安とかドル高のトレンドは非常に出にくい一年になろう。

―プラチナは自動車産業という景気後退の影響をモロに受けるセクターと一連托生なので、来年は金価格より安い(ディスカウント)がありうる。特に米国自動車ビッグスリーに、破たんに近い状況などが出ると相当売りこまれるだろう。ただし、そのディスカウントは示現しても長続きはしない。価格変動性が2000ドルから700ドルに振れるようなメタルなので、長期に保有するのは、ちと心臓に悪く、割り切ってディスカウントの安値を拾い、供給ショックで急騰するような相場で、(短命であるから)割り切って売り手仕舞うというスタンスか。あくまでリスク耐性が強い投資家限定バージョンであるが。

―金市場で現物不足と言われるが、ラージバーならば、なんぼでもある。要は鋳造に時間がかかるので、小型金塊とか金貨の製造が追いつかないだけの話である。ただし、どこの造幣局でも金貨の在庫が底をついたような現象は、筆者の30年以上の経験の中でも初めてのことで、それだけ一般個人の金買いの裾野が広がっていることは謙虚に受け止めるべきであろう。(ここで、謙虚でなく、小口の現物売買を馬鹿にして大損した、筆者のトレーダー時代の苦い経験談などを話した。)

―ヘッジファンドの資産処分売りは、11月15日の決算期D-Dayが過ぎても、ファンドの解散、清算などは止まらず、まだ続きそう。ゆえに目先の高値には戻り売りが待つ。NY先物買い残は原油が空売り増加で売り越しに転じたが、金はピーク時の三分の一に減少したものの、基本的には買い越し。700ドルから金をショート(空売り)にするのは、ディーラー心理としては何とも気持ち悪い。米国金融危機にしても、まだ"大型不発弾処理"が2発は残っている様相であるし。

―足元では、NY株が急落すると、投資家のリスク資産撤退モードが強まり、金も売り手仕舞いが加速し、(欧米では市場のリスク警戒感を表す指数化した感のある)円は買われ、円建て金価格はダブルで下がる。円の独歩高ということは、以前にも述べたごとく、世界中で日本人が一番割安に金を買える国民ということだ。(池崎さんの質問に答え)、せっかくのサンタクロースさんからの期限付きプレゼントは素直にお受けしたら。

2008年