豊島逸夫の手帖

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金↑ならオバマ、↓ならマケイン?

2008年8月25日

米大統領選挙で共和党マケインが民主党オバマに支持率調査で肉迫してきた。ロサンジェルス ― ブルームバーグ調査ではオバマのリード差が6月の12ポイントから2ポイントまで縮小。他の調査では逆転さえも見られる。

背景は原油高で、米領海内の原油採掘規制撤廃を掲げるマケインの政策が評価されたこと。イラク情勢が相対的に安定化の様相を見せ、オバマの対イラク強硬路線の訴求力が弱まったこと。グルジアや東欧ミサイル配置問題による米露関係が緊張化しマケイン氏の外交強硬路線が共感を得たことなどが挙げられる。

選挙戦としては、マケインが選挙参謀の頭をすげ換え、オバマ個人攻撃を繰り広げた。"増税路線で経済をマヒさせ、経験不足を口八丁で補う"と叩く。確かに、最近の公開討論でも、脚本なしでプロンプターなしだと、オバマは雄弁さを欠いた。(筆者も欧米の国際会議で講演するとき檀上で目にするが、透明プラスチックの小さなスクリーンが講演者の目の前にぶら下がり、そこにセリフが映し出されるが、観衆からは透明にしか見えないという仕掛けがテレプロンプターと呼ばれる)。

両者の支持率を追ってみると、経済情勢に敏感に反応している。原油が最高値をつけた時期にオバマ支持率は最高に達し、SP500が最低水準に沈んだ時期にマケイン支持率は最低となっている。その後、原油価格が急落するとマケイン支持は急回復。(選挙民にとってはNYMEXの先物原油価格ではなく、近所のガソリンスタンドの価格のほうがベンチマークではあるが)。

総じて、原油急騰、株安となると現政権共和党の経済政策への批判が強まりオバマ有利となるという流れのようだ。(ただし、地政学的リスクが高まるとベトナム戦争のヒーローだったマケインが買われる傾向もある)。

金市場から見ると、金価格が急騰し、その要因が米国金融不安だと共和党の失策とされオバマ有利。米国経済が安定化の兆しを見せてドル高に転じ、金価格が急落すると、大統領選挙のテーマが経済問題から離れるので"実績あり手堅く幅広い分野で政策実行能力あり"とされるマケイン有利かと映る。

実際の経済政策論を見れば、最大の差はオバマの富裕層増税、証券税制強化に対し、マケインの減税維持という点以外はさほど相違点が浮かび上がってこない。経済政策というのは、なにかしら国民生活に痛みを強いるものだから、選挙戦ではその痛みについての話を避けるか、和らげるような特定の政策に議論が狭く集約しがちなもの。

結局、オバマやマケインの大演説より、バーナンキの一言、さらにグリーンスパンの発言などのほうがマーケットには遙かにインパクトあるのだ。

そのバーナンキ率いるFOMC議事録が明日発表される。その他、今週は重要な経済指標発表が目白押し。26日火曜日のケースシラー住宅価格指数、コンファレンスボード消費者信頼感指数、ドイツのIFO企業景況指数。28日にはオバマが民主党全国集会で大統領候補指名受託演説。29日には米個人消費支出。ユーロ圏の消費者物価上昇率と失業率。ドルユーロを動かしそうな数字が並ぶね。

引き続き薄い夏休み中の取引状況の中で、値だけ飛ばす荒い展開になりそう。一週間すったもんだして、週末には振り出しに戻るのじゃないかな。後部座席の方々もシートベルトは低く強めに締めましょうね。

2008年