豊島逸夫の手帖

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ドル反騰、原油続落、金融危機後退、金急落

2008年7月23日

じつにめまぐるしい展開が日々続く。昨晩はNY時間で975ドルから945ドルまで一挙に30ドルの急落。それも数時間で。どうも950ドルが鬼門のようである。7月14日付け本欄"トリプル安で金続騰"の中で、ショートのストップロスがヒットされ(空売りしていた投機家たちが損切りの買い手仕舞いを入れること)、950ドルの上値抵抗線をあっさり上放れたと書いたが、昨晩は同じ950ドルでロングのストップロスがヒットされ(買い持ちしていた投機家たちが見切りの売りを入れること)あっさり下放れた。

相場の展開速度も、以前なら1ヶ月かけて売買の一サイクルが完了するところを、24時間で"行って来い"の売買が終わってしまう。マーケットのセンチメント(雰囲気)は、米国大手金融機関の"告白の週"が終わり、悪材料出尽くし感が漂うなかで株が反騰。とくに空売りされていた米金融セクターの株が買い戻されている。とはいえ、このつかの間の"安心感"もいつまで続くことやら。24時間でセンチメントもコロリと変わるからねぇ。

金に関しては、明らかに原油急落に引っ張られている。

さて、昨晩のワールドビジネスサテライト(WBS)も、今週号の日経ビジネスも、日本国内の金リサイクルの動きを特集。日本だけがなぜ金を売るのか、という問題提起である。

そのヒントが下記のグラフにある。金価格が大底を打った1999-2000年と2006-2007年の国別投資家金現物売買動向の比較である。日本は1999-2000年に大量の金を買い、2006-2007年に大量の金を売っていることが鮮明に出ている。1999年当時は、世界的にもはや金などは時代遅れで、"有事にもドル"と言われた時代であった。欧米のアナリストたちから、日本はなぜそれほどに金を買うのかと質問されたものだ。日本人金投資家には、"バーゲンハンター"というニックネームもついた。その人たちが、今、ニコニコ顔で金を売っている。

529.jpg買った価格の2倍3倍で売れるのだから無理もない。平行して、もっと昔に3000円、4000円で金を買って塩漬けにしておいた人たちのヤレヤレ売りも見られる。もう金はこりごり、さっさと売払って忘れたい、という気持ちのようだ。セミナー会場でも悲喜こもごもの様子が窺える。

それにしてもインドは凄いね。安いときも買って、高くなってもさら買い増している。中国が少ないのは輸出輸入が統制されているため。その分、抑圧された潜在需要が大きいことも事実。

WBSの取材で気になったことは、ある業者の発言。"買い取りでマージンを20%乗っける"という。まともな貴金属会社では考えられない数字である。多分、質屋系統の発想なのだろう。街中には急造の事務所に"金プラチナ買います"の看板掲げる"急ぎ働き"系の業者も目立つ。売りに来る消費者たちも、買うときは一円でも安くと値切るが、売るときは売れれば御の字とばかりに提示価格に対して鷹揚である。まだまだ情報が不足しているなと改めて痛感した次第。


2008年