豊島逸夫の手帖

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インフレと金融不安の同時進行

2008年8月20日

昨晩NY市場のサプライズはPPT(生産者物価上昇率)。事前予想が0.5%(コアで0.2%)だったのが、発表された数字は1.2%(コア0.7%)。これは年率で10%以上に相当する。二桁インフレの兆しとも読める統計数字だ。

このサプライズで、FOMCがインフレ警戒モードを強め、利上げ観測が一気に加速し、ドルがさらに買われる...、かと思えば、そうはならなかった。その理由は、同時進行の米国金融不安。

先週末のバロンズ誌がフレディーマック、ファニーメイへの公的資金注入やむなしとの報道で両社の株価が再び急落。リーマンには40億ドルの追加損失引当処理の観測が流れる。マーケットの雰囲気としては、ここで利上げなどしたら金融不安の火に油を注ぐようなもの、という感触だ。

結局、FOMCも利上げには踏み切れず、インフレはclear danger(明らかな危険性)とウオールストリートジャーナル紙が書くほどに"懸念"から"現実の問題"となり、インフレヘッジとしての金が買われる。ドルは反落。原油反騰。加えて、金融不安の中で、質への逃避マネーが金へ流れるという展開の中で、NY金は20ドル近い急騰を演じ810ドル台を回復した。これで金価格が底を打ったとはまだまだ思えないが、徐々に底値圏を形成中ということだろう。

なお、大手投資銀行が短期相場見通しを相次いで引き下げ。ゴールドマンサックスは3か月予測を890ドルから745ドルへ。UBSは1か月予測を1000ドルから850ドルへ。夏季休暇中に虚を突かれて下値抵抗線が破られ、この手の予測が150ドルも下振れるということが、今回の下げの主役となったパニック的ストップロスに到る実態を示唆している。そして、来月に、これらの予測が150ドル上振れしても全く不思議はないとも言える。

マーケットに弱気見通しが拡大すればするほど、市場内には買いのエネルギーが蓄積してゆくものだ。参加者の多くが弱気に転じて同方向を向いたところで、oversold(売られ過ぎ)の反動が起きるだろう。

2008年