豊島逸夫の手帖

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真夏の雪崩

2008年8月6日

昨晩のNY株式市場は、FOMC声明文より商品相場続落の材料が目立った。原油は120ドル割れ。

夜店の値切り交渉じゃないけれど、最初ふっかけられた後で値段が下げられると、凄く安くなった錯覚に陥る。原油市場に関しては、150ドルとか200ドル覚悟のマインドになっていたから、100ドルまで急落も視野にと書かれると、凄く安くなる錯覚に陥る。でも、100ドル大台突破の時は、こんな高価格水準になったと大騒ぎしたよね。人間の感覚の慣れというのは怖いものだと痛感。

金は870ドル台。本欄ではお馴染みの言い回しを使えば、投機買いの"新雪ドカ雪"が雪崩で削ぎ取られ、実需買いの"根雪"の部分が露出しかかっているところ。

535.gifこの根雪と新雪の境が4年前は400ドルであった。それが今や850ドルにまで上がっている。そして一時1000ドルを突破した金価格が870ドル台まで反落。この水準ではアジア中東の実需家たち値頃感から買い出動することは、金需給四季報でも検証されていることだ。"新興国の買い"対"NY先物の売り手仕舞い攻勢"の構図。商品で大損出したヘッジファンドの噂などがマーケットに流れる。お馴染みの風景である。

NY市場では、商品から株式へのマネーシフトが鮮明。FOMC声明文では"双子の脅威"=インフレリスクと景気後退リスクの並存を確認。インフレのupside risk(上振れリスク)はsignificant(重大)とこれまでにない形容詞を使った。(相変わらずのFOMC英文解釈講座。)それでも利上げには具体的言及もなく、FRB理事も一人を除き全員が金利据え置きに賛成とのことで、"利上げ遠のく"との解釈。

これは株にも金にも追い風の材料だが、NY株上昇に対しNY金は続落。イラン情勢も再悪化の兆しが見えるが、地政学的リスクもNY金は無視。ということは、とにかく下げたがっているのだね。950ドル以上がオーバーシュートとすれば、850ドル近くはアンダーシュート。

為替は中期的流れがドル高に傾いている。米景気減速が欧州始め世界各国に転移するリカップリング現象の中で、相対的にドル価値が"若干"浮上している。でも、ドル不安の底流が変わったようなマグニチュードは全く感じられない。どちらかと言えば、夏休み期間中の薄商いの中にドルが漂っている感じだ。あまりまともに見ないほうがよろしい。

商品市場では、とにかくリカップリングを嫌ってマネーが離れている。需要減シナリオに目が行っているのだ。新たな需給均衡点の模索の過程である。"価格が上がれば、供給は増え、需要は減る"ことが経済学のABCだが、今は"価格が上がっても供給はさほど増えず。需要はセオリー通り減少する"。縮小均衡ということか。でも、これはあくまで短期的な話。長期的には世界の人口爆発に歯止めはかからず、モノの需要が趨勢的に減るとはとても思えず。

今日はフレディーマックの決算発表があるが、米金融不安も未だ予断を許さないよ。

それにしても7月から8月にかけての金市場の値動きは展開が早い。1000ドル近くまで急騰後、870ドル。半年分のマーケットエネルギーを1か月で消化してしまう。年末にかけてまだ二波乱から三波乱は覚悟せねばならぬ。

2008年