豊島逸夫の手帖

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1000ドルへの助走開始

2008年2月28日

金価格は960ドルまで上昇。今回の最大の要因はドルが対ユーロで1.51という大台を突破したこと。最高値を突破したユーロはこれで青天井。とにかくユーロ金利4%、ドル金利3%の金利差は大きいね。米国経済指標も悪すぎる。

本欄1月10日付け"金が上がるシナリオ 下がるシナリオ"で以下のように述べた。

金が1000ドルになるとき。サブプライム救済のためにFRBが金利を3%にまで下げる。ドルユーロは1.50突破。米大手住宅金融会社が破たんする。原油は120ドル。中国、中東の政府系ファンドが金へ分散投資。カルパースなどの米大手年金が金ETF購入開始。中国の金解禁進行。ホルムズ海峡では米とイランが接触。大型金鉱山会社合併によりヘッジ売りの大量買い戻し続く。南ア金鉱山は鉱山事故多発で深層鉱脈採掘を断念。(引用終わり)

そこで現状を見てみよう。FFレートは3%。3月のFOMCではおそらく2.5%へ。とくに夕べのバーナンキ証言で確率は高まった。ドルユーロは1.51。カントリーワイドや債券保証会社が破たんの危機。原油は102ドル。政府系ファンドやカルパースの金買いは未だ。中国は前年比20%の需要増続く。ホルムズ海峡では米国よりフランスのアブダビへの軍隊派遣のほうが不気味。サルコジは前任者の対話路線とは反対に対イラン武力行使を辞さずの姿勢ということは以前述べた。ニュークレスト、アングロゴールドのヘッジ買い戻しは進行中。そして南アの電力危機で南ア金生産は20%減少の見込み。

まぁ、こう見てくると1000ドルへの地合いは整いつつあることは間違いない。とくに、IMF金400トン売却の報で一時30ドル近い急落を見せたが、わずか24時間で立ち直り、新高値をつけたことに注目。400トン程度であれば、中国、ETFなどで十分吸収できるという市場の読みである。弱材料がかえって地合いの強さを引き立てる結果になった。

筆者の注目点は、むしろ1000ドルで、それからどうなるということ。気になる材料はある。900ドルでもついてこない実需が1000ドルでついてくるわけがない。この手の需要急減要因は地味だが、じわじわボディーブローみたいに効いてくるもの。あまり浮かれない方が良い。こういうときこそ、冷静にファンダメンタルズを見直す時期。本欄2月14日"最新金需給四季報"をもう一回読み直してほしい。なお、来週3日月曜日のCNBC夕方5時、再放送8時からの番組で、この点を語ります。

プラチナも今でこそ、南ア電力供給の要因にばかり市場の目が集まっているが、2000ドル以上の素材になって、需要サイドの影響も計り知れない。メーカーは代替技術開発に必死だし、宝飾は壊滅状態である。こういう需要要因がボディーブローでじわじわ効いてくることは金と同じ。中国で流行りの代替素材パラジウム ジュエリーに対しては、ユーザーよりギョーカイーの拒否反応が強いが、欧州のトップブランドにはパラジウム採用の動きがあることを筆者は知っている。ユーザーの特定素材への思い入れはギョーカイーが期待するほど強くはない。なんせ、鉄でも革でも何でもありの時代だからね。

プラチナ価格の乱高下は、限られたチューリッヒのスポット在庫を皆で争っているという特殊事情による。筆者は、スイス銀行のプラチナトレーダーとして、 そのスポット在庫の売買をやっていたから、何が起こっているか見当がつく。

金もプラチナも、まだモメンタム(相場の勢い)があるから価格の更なるオーバーシュートはあると思うが、警戒水域に入ってきた。

2008年