豊島逸夫の手帖

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中東で糖尿病蔓延のワケ

2008年5月12日

UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビには世界有数の糖尿病治療センターがある。同国人の5人に1人が糖尿病なのだ。これ、世界一。次いで3位がサウジアラビア(16.7%)、4位バーレーン(15.2%)、5位クエート(14.4%)。理由は、座りっぱなしの仕事が圧倒的に多いこと。サービス業とか建設現場での仕事に従事することを"恥"とする文化があり、外国人労働者に任せっきりである。UAEの労働人口の9割は周辺諸国からの出稼ぎだ。(これはこれで、原油高騰の恩恵のばら撒き効果があるのだが)。

外は暑いから、当然、運動不足。ショッピング モール ウオーキング クラブが奨励されるほど。さらに、暑い国の食事は糖分が多い。加えて、原油高騰で国庫が潤沢なので、中東諸国の社会福祉水準が高いことも労働意欲を削ぐ効果をもたらしている。住宅、医療関連の国家補助は厚く、国内企業には現地人雇用枠が課されるので、結果、多くの現地人が名ばかりの仕事で雇用され、政府雇用補助金の恩恵を受ける。国民の経済振興のインセンティブに欠けることにもなる。中国人やインド人が頑張って働いてくれればくれるほど、原油需要も高まる仕組みになっているから、所詮、人頼みになってしまうのかも。サウジアラビアの場合は、人口が多い国なので、労働意欲減退が失業率の高さ(12%)となって顕著に現れている。

湾岸諸国の今後の最大の国内問題は教育であろう。優秀な国内人材養成が急務なのだ。そこで期待されているのが、金融セクター。ドバイは一大金融センターになりつつある。今や話題の政府系ファンドもその一分野。アブダビ投資庁には1400人も働くが、そのほとんどを外国人金融専門家集団に頼っているのが現状だ。養うべき国内人口の少ない湾岸諸国に加え、ここにきて、ついに多くの人口をかかえるサウジアラビアも政府系ファンド設立に動き始めたことが最新の話題だ。(対外準備資産が3000億ドルは下らず、IMFに未報告の"隠れ外準"はそれ以上とも言われる国だからね)。

このオイルマネーの動きは金市場にも当然影響を与える。(ちなみにオイルマネーというのは和製英語。欧米では、ペトロダラー、と言われる。それほどにドルに運用が集中しているということか)。1970年代には、ペトロダラーという過剰流動性が中南米諸国に流入し、メキシコ債務危機を招き、金価格急騰の原因にもなった。その後は、原油高騰がスタグフレーション(物価高と景気後退の同時進行)を招き、金価格長期低迷の要因にもなった。さらに、ペトロダラーは中東の"武器商人"を潤し、イラク戦争など中東の地政学的問題の遠因ともなった。

今回のペトロダラーという過剰流動性は、ヘッジファンドの急成長、新たな運用先としての住宅ローン証券化商品の登場を経て、米国の低所得者層に流入して、サブプライム危機を招き、金価格急騰の原因になっている。

どうも、カネが有り余ると、人間は労働意欲を失い、欲望の虜になってしまうのかね。原油高騰が、メキシコ債務危機、サブプライム危機の遠因となってしまったことには実に考えさせられる。そして、金の価格は、人間の欲望と"相関関係"にあるという厳しい事実も考えさせられるね。もし、中国人のほとんどが"孔子さま"のような"性善説"人間だったら、中国経済の急成長もあり得なかっただろうし。"性悪説"人間が利益追求の経済成長の原動力になったわけだし。性善説が成り立つ世の中なら 金価格がこんなに急騰することもなかっただろうねぇ...。

さて、足元の金価格は880ドル台を維持。金曜日のNYでは一時870ドルまで急落したが、直ぐに買い直された。目下のテーマは"インフレ。マイナスの実質金利"。

なお、今日の日経CNBC午後5時(再放送夜8時すぎ)からのデリバティブ番組に筆者の親友でETFの権威デビッド コリンズ氏(ステートストリート グローバルアドバイザーズ)が生出演します。同社は世界の金ETF市場で7割のシェアを占める最大手。当然、テーマは金ETF。在日20年近くで、奥さんが日本人なので、日本語堪能のナイスガイです。見てくださいネ。(親友のテレビ初出演を見るほうは結構ドキドキですね。スタジオ内まで付き添いフロアディレクターでもやろうかな(笑)。

2008年