豊島逸夫の手帖

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インドの自動車危機

2008年12月16日

デトロイトの危機も大問題だが、"金を通して世界を読む"と、もっと気になるのがインド経済繁栄の象徴であったタタモーターズの惨状である。

インド最大財閥タタグループに属する同社は、元々トラックと新興国向け小型車の製造メーカーであった。とくに今年1月に一台20万円前後の"ナノ"という世界最安値の車を発表して話題になった。タタグループを率いるタタ氏は、インドのフォードと持て囃された。

しかし、勢いに乗った同社が、フォードのお荷物となっていたジャガーとランドローバーの買収を発表したときから、"ちょっとノリ過ぎ、やり過ぎじゃない"という声がマーケットでは聞かれ始めた。"ナノ"の対極にある高級車部門を引き受けて大丈夫なのか、という疑問である。

それでケチがついたわけでもなかろうが、"ナノ"製造工場建設に際し、農民から土地を力づくで買収したとの批判が上がる。同地域はカルカッタに近い西ベンガル州にあり、共産党の強い地盤である。結局、現地の抵抗に屈し、工場建設地域を他に移すことになり計画は1年以上の遅れとなる。

この一件は、同グループのイメージダウンにもなった。州政府がタタに加担するかのように肥沃な水田地域買収に力を貸したという、"第三者"グループによる調査結果が発表されたからだ。

当然、世界的景気後退の波も被り、同社の販売車数も急落。この2カ月の間に頻繁な工場一時閉鎖を余議無くされている。

さらに、ジャガー、ランドローバー買収資金3000億円をファイナンスするために、一般個人から定期預金のような形態で資金を調達するという"禁じ手"も使ったことで、ムーディーズは同社の格付けを二回にわたって引き下げ、三回目も近いと云われる。

タタグループは、ムンバイ同時多発テロで、同市のウオーターフロントに建つタージマハールホテルを襲撃された。同ホテルはタタ現会長の會祖父が105年前に建設した同グループの象徴的存在である。弱り目にたたり目の同グループの現状がインド経済の縮図とも言える。"インド経済に黄色信号"と本欄では語ってきたが、わずか一年の間で青信号から黄信号、そして赤信号にもなりかねない様相である。

話題は変わって、今朝の日経朝刊でも詳しく報じられている元ナスダック会長による"史上最大のネズミ講"スキャンダル。先週からNYの連中が"ネズミ講"だと騒ぎ始めていたのだが、最初はさほど気にも留めていなかった、というより"まさか"という気持ちで聞いていた。

しかし、真相が明るみに出るにつれ、"信じられなーい"という反応になった。20年間も彼一人で4兆円以上をかき集めて詐欺行為をしていたのだ。日経の見出しに"ネズミ講に似る"とあるが"ネズミ講そのもの"なのだ。こんな単純な詐欺に野村証券、BNPパリバ、RBS,HSBC、そして有名人ではフィラデルフィアイーグルスやNYメッツの会長とか、GMAC会長などがいとも簡単に引っかかってしまった。

個人投資家は別として、プロの機関投資家は"穴があったら入りたい"気持ちだろうね。ほんとに恥ずかしい失態である。被害者たちのインタビューが米国テレビで色々流れているが、皆一様に、"彼のカリスマ性に惑わされた。SECに近いという評判だったし。このファンドは御社のような選ばれた機関投資家の方に限定して販売しています、と言われると断れなかった"だと。これじゃ、普通のおじさん、おばさんがネズミ講に騙されるとの全く同じじゃない?いったい、大手金融機関としてのデューディリ(取引相手の精査)はどうなっているの、と首を大きくかしげたくなる事件ではあった。

さらにファンド オブ ファンズ(FOF)の中には全額を同ファンドに丸投げしていたところもあるそうだ。本来、玉石混交のヘッジファンドの中で良さそうなところを見つくろって、それに対する高額の報酬を得るFOFが、である。
いやはや、あきれ果てて、これ以上言葉も出ない...。

2008年