豊島逸夫の手帖

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バーナンキの本音(今週のFOMCを読む)

2008年6月23日

最近、本欄で金価格についての記述が少ないと言われるのだが、それには理由がある。

まず、金市場がますます金融商品化の度合を強め、株式、債券、外為のトータルのマーケットの一部として見てゆかないと、真の動きが読めないこと。中央銀行による売却など、金市場独自の要因が相場を動かすことが稀になってきている。

次に、金市場は大きな流れが変わらないから、日々語る必要もない。外為市場は、円高、円安という基本的方向性が定まらず、毎月のように"長期見通し"が変化する。先週も、95円の時、目先90円を予想したアナリストが、110円を唱えていた。(だから110円は無いね。)

しかし、金市場は、長期的には上昇基調継続。下がっても知れている。価格は高止まり。短期的動向は、筆者が常にセミナーで戒めているように8勝7敗の世界だ。

なお、中期的には金利要因が相場の頭を押さえている。筆者は、昨年時点では、今年の後半に、原油高などによるインフレ予防の観点からFRBはいずれ利上げ転換を余儀なくされると見ていた。昨年の日経マネー金別冊でも金価格のリスク要因として同様のコメントを述べた。

しかし、現実の経済展開のスピードは筆者の予想を上回るペースで進んだ。今年後半どころか前半に原油は130ドル、穀物価格急騰も加速し、すでに債券市場は年内FRB利上げ0.5%を織り込みつつある。こうなると元来へそまがりの筆者は利上げ説が気にいらない。

マクロ的に見れば米国政府は利下げ打ち止め、さらには(場合によっては)利上げでインフレを予防し、減税で景気浮揚を図るという金融財政政策の組み合わせ(ポリシーミックス=筆者にとっては国際経済学の教科書で学んだ懐かしい経済用語だ...)を選択しているように見えた。

そこで、筆者は米国経済につき"W字型"の経済シナリオを予想した。一人600ドルの税還付小切手が国民各人に送られ、それを使い切ってしまえば、また経済は失速する。サブプライム危機も最悪期を脱したとはいえ、まだ、合併症を併発している。ところが、実際の経済は、またも筆者の予想を上回るスピードで悪化。失業率などは一月で0.5%の悪化。NY株も金融セクター総下げ。"Wの字"の真ん中の部分の山がかなり低く、一番右方の"/" の部分も形が崩れた変形になりそうな様相だ。(その最悪シナリオがL字型。別名日本型とも云われるけどね)。

こうなると、バーナンキさんとしては、インフレの芽を摘むために利上げやるぞ、やるぞと"語り"つつ、実際の行動は利下げ打ち止めに留めるしかなかろう。さらには、金融危機が再燃すれば、年後半に利下げ再開も十分にありうる形勢だ。

そもそも、債券市場が0.5%利上げを織り込み、その情報が活字になった時点でサプライズ性はなくなった。マーケットは、織り込まれた情報が逆に出た時に反応するようになる。

ウオールストリートジャーナル紙などが利上げ反対論を唱えていることは、FRBの見解を代弁していると思う。FRBの巧みなメディアリーク戦術であろう。利上げをやると見せて、やらない。インフレファイターとしての中央銀行の姿勢は守りつつも、景気への配慮を優先させる。これが今週のFOMC声明文のトーンではないかと思う。

金利を生まない金は、殊のほか、利下げ利上げに敏感に反応する。さらにドル金利は外為ドル相場の重要な決定要因にもなる。年後半1000ドル復帰説の根拠となるマクロ経済シナリオである。

なお、今朝の日経朝刊"家計"面に、純金積立と金ETFの"比べて選ぶ"記事が載っています。よくまとまった記事だと思います。

2008年