2008年8月7日
先週はメリルが3兆円規模のファイアセールを実行した。ファイアセールの意味合いは、火事場に残った品物の叩き売りということ。本欄で以前にも使った表現だ。
メリルが叩き売った債券は、どれも格付けはトリプルA(のはず)であった。それが実際に売れた価格は、額面のなんと22%。そんなガラクタを抱えていたメリルも問題だが、そのガラクタにトリプルAのお墨付きを与えた格付け機関は厳しく糾弾されねばならぬ。
投資家は、ウオール街の老舗が販売する商品で、しかもトリプルAブランドということで信用して買った。それが見事に裏切られた。メリルのバランスシートは、追加損失計上、自己資本増強で徐々にきれいなカラダになってゆくかもしれないが、投資家の信頼を取り戻すには時間がかかる。日本の食品偽装事件と同様である。
昨晩はリーマンも3兆円から5兆円のファイアセールを余儀なくされようとのアナリスト見通しがNY CNBCで流れていた。
これらの投資銀行は、高度な金融技術という知的財産を武器に、空前の利益をあげてきた。"勝てば官軍"という意識がマーケットにも社内にもみなぎっていた。でも、その実態が先述の22%というような数字で改めて示されると、結局、中世の錬金術の類とたいして変わりなかったと思い知らされる。
22%という数字を敢えて良く解釈すれば、これでやっと気配値ではない、マーケットで実際に売買された値がついた、ということか。なんせ、保有している投資銀行自身が、自分が保有しているサブプライム関連債券の真の価値が分らなかったというお粗末な実態だったのだ。売買できるマーケットもなく、たとえ場が出来ても参加者は信用収縮で凍りついてしまった状態だ。売るに売れなかった。それが、やっと売れた。以前、お宝探偵団に譬えたことがあるが、鑑定希望者が"100万円"と書いて掲げたが、鑑定団の評価は"22万円!"。おカネに困っている鑑定希望者なら、22万円でも御の字ということになろうし、ホールの観衆から見れば、なーんだ、本人の言い値の22%か、ということにもなる。
この、なーんだ、が問題なのだよ。次に鑑定希望者が出ても、どうせまた22%じゃないの?と疑り深くなる。今の国際金融市場は、取引参加者間の信頼で成り立っている。それが、なーんだ、となったときの後遺症はなかなか治らない。
さて、昨晩のNY市場は、ドルが一段と高くなり、原油も120ドルを割れたままだが、金は880ドル台にまで戻した展開。金とドルとの理論的関係とは関係なく、売られ過ぎの反動で買われた感じだ。夏季休暇相場の典型で、値がふわふわ漂っている様相。こういう時期は、日々の価格変動をあまりまともに見ないほうがいい。