豊島逸夫の手帖

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一時900ドル割れも

2008年7月31日

金の下げが加速。昨晩のNYでは一時900ドルを割れる局面もあったが、原油反騰に引っ張られ900ドル台を回復して終えた。下値模索の展開。売りの材料の揃い踏みである。

何と言っても、金融不安の(一時的)後退。最悪期は過ぎたとの安心感から、質への逃避マネーが金市場から株式市場へ戻っている。ファンドポジションも金融株売り、商品買いからの巻き戻しが進行中だ。背景には株式市場の空売り規制が効いている。

米経済の小康状態をテコに、外為市場ではドルが反騰。一時1.60の大台突破したドルユーロのレートも1.55までユーロ安、ドル高。

原油価格は、ここまでの急落がインフレ懸念後退の連想で、金にも売り材料になっていた。ただし、昨晩のNYでは原油価格が反騰し、890ドル台まで下がっていた金価格を906ドルまで引き戻す原動力になった。

テクニカル的にも、移動平均線の位置する912-914ドルの水準を下放れたことでストップロスの売りが下げに拍車をかけた格好。

今回の経緯を振り返ると、本欄で指摘してきたように、新興国売り対NY買いの拮抗状態が続いていたのだが、この勝負は新興国に軍配が上がった。背景にはリカプリング=米国経済減速に新興国も"連動"するという兆候が出てきたことが挙げられよう。ディカプリング派には若干旗色が悪い。

ただし、900ドル前後にまで下がるとアジア中東の実需買いが復活するは必定。一方、NYには先物買い残高が605トンという最高水準で蓄積しているので、これが手仕舞いモードに入ると戻り売り基調になる。故に、目先は新興国買い対NY売りという、これまでとは正反対の構図となりそう。

なお、今日は米国GDP、明日は毎度お騒がせ米雇用統計という重要指標が待ち構えているので、相当荒れそうな雲行きだ。

大きな流れでは、金融不安後退と言っても、本欄で指摘してきたように根が深い問題なので、あくまで"小康状態"である。ドル高と言っても、例えば、米国財政赤字が2009年度は4900億ドル近くの高水準となりそうで、双子の赤字が再び悪化の兆候。加えて、双子の脅威=原油高とサブプライムの同時進行という根源的構図に変化はない。とてもドル安基調の転換とまでは言い難い。原油価格も急落が続いたとはいえ、まだ絶対水準が120ドル。これで"急落"とか"安くなった"とか、どうもマーケットの高度感覚がマヒしているようだ。NY株の戻しも、あくまでベアー マーケット ラリー(弱気相場の中での反騰局面)という位置付けだ。

金と原油の関係で見れば、腐食せず残る金の地上在庫が高値圏でリサイクルとなって環流し上値を抑えるのに対し、原油は燃えればおしまい。この差が上げのスピードの差となって顕在化している。

中期的流れを見れば、コモディティーとしての金の需要が世界景気減速懸念によって減少するという現象と、マネーとしての金の需要がまだまだ収束したとは言い難いドル離れ、金融不安、インフレ懸念により回復するという現象の綱引き状態となろう。

下げてはいるが底は浅い。今後予想されるヘッジファンドの金先物買い残の集中的売り手仕舞いの時に相場が瞬間的に急落するような局面が新規買いのタイミングとなりそう。

罫線を見ても、最近は900ドル以下になると下ヒゲが長い形が繰り返されている。つまり、900ドル以下で急落しても直ぐに買い戻されるのだよね。850ドルくらいで買いたいところだが、皆がそう思っているときは、実際にそこまでは示現しないものだ。ほどほどのところで手を打たねば。

2008年