豊島逸夫の手帖

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株、債券、ドル、原油激動の中で浮上する金

2008年7月22日

いま問題になっている米国発金融不安の問題を整理してみよう。

528.gif以上の構図なのだが、一番の問題は、ポールセンとバーナンキがGES(政府系住宅金融会社)二社に対する支援を語れば語るほど、"それほどまでに実態は痛んでいたのか"というショックがマーケットに走ったことだ。

GES支援のニュースの前に、テレビ画面に米国地銀インディーマックの取り付け騒ぎで支店前に並ぶ預金者の列が映し出されるようでは、投資家の不安心理は容易に払拭されぬ。

さらにSEC(米国証券取引委員会)トップのコックスが、ファニー、フレディーに対する空売り規制を打ち出したことで、先週水曜日には"史上最大規模のショートカバー=空売りの買い戻し"がNY株式市場の金融株セクターで起こった。ダウは反騰したが、所詮ベアーマーケットラリー(弱気相場の流れの中での調整買い)に過ぎない。

米国大手金融機関の決算発表も、事前予想より良いところでも絶対損失額が大きすぎる。どうみても異常な数字だ。VIX(ボラティリティー指数)はベアスタ破たん以来の30の大台越え。ドルは対ユーロで1.60の大台を一時突破(ドル安加速)。そして、原油急落の同時進行。米国CPI(消費者物価上昇率)はヘッドラインで5%台へ急上昇。

こうして見ると、米国経済は容易ならざる事態に陥ったことが分かるであろう。問題は、この事態打開の妙薬が無いこと。昔は米経常収支赤字と財政収支赤字の"双子の赤字"が問題視されたが、今や、それに加え"双子の脅威=twin threats"が、バーナンキの最大の頭痛の種となった。物価上昇と景気不安の同時進行である。利上げすれば金融不安を悪化させ、利下げすればインフレ傾向を過熱させる。どっちに転んでもlose-lose(負け負け)のシナリオだ。ところが、これが金市場にとってはwin-win(勝ち勝ち)のシナリオになってしまう。質への逃避買いか、インフレヘッジ買いか。そこにドル安ヘッジの買いも絡む。

メディアでも金関連報道が目立つ。昨日発売の日経ヴェリタスでは、7ページに"金への資金流入進む"の記事。同日発売の日経ビジネスは"金本位制復活"という派手な見出し、ドル凋落、金上昇についての大特集。今日の日経夕刊"明日の勘どころ"では、来週にかけての金相場見通し"勘どころ"。今夜のテレビ東京系ワールドビジネスサテライトでは、国内の金リサイクル事情を伝えるようだ。(これはニュース次第なので予定)。

なお、19日発売の日経マネーでは別冊で金ETF特集が入っている。整合性を保つため、過去の日経マネー記事での筆者のコメントをアーカイブで検索してみたのだが、2006年10月23日の日経マネーゴールドセミナーの誌上採録でこう述べていたよ。

"来年の金にとって重要なことは、米国住宅市場がさらに悪化し住宅抵当公社が経営不安になり、信用リスクが増大することが挙げられる。今は住宅ブームがソフトランディングするとの見方が支配的だが、リスクシナリオとして頭に入れておく必要あり"と、米住宅市場の動向を視野に入れておく重要性を説く。 たしかにあの当時はアナリストがまだ楽観的だったよね。以上、自慢話で今日はおしまい。

2008年