豊島逸夫の手帖

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グリーンスパン氏の反省答弁

2008年10月24日

日経から出版する本の発行日が12月19日と決まり、これから原稿にチェックを入れる最終段階である。ちょうど9-10月の歴史的転換期についての記述を入れ込めたのは幸いであったが、本の場合には単にマーケットの流れを追うだけではダメである。新聞や雑誌のコメントが"虫の目"や"魚の目"とすれば、本の原稿は"鳥の目"が必要ということになろうか。歴史的視点が欠かせない。

そんな折、昨晩NY時間のグリーンスパン氏の議会での"反省答弁"を聴きつつ、まさに歴史の流れを感じた。サブプライム危機以前の同氏発言記録を次々に"状況証拠"として突き付けられる。

2004年議会証言
"FRBの最近の調査によれば、多くのマイホーム所有者が、過去10年間に固定金利の代わりに変動金利でローンを組んでいたら、数万ドル単位で資金を節約できたはずである。"

昨晩の議会証言
"私の変動金利ローンについての見解は間違っていた。実は私が個人的にローンを組んだ時も変動金利ではリスクが大きいと感じた。30年固定金利が最も重要だと思う。"

2005年議会証言
"多岐にわたるデリバティブの活用は、巨大化した金融システムを強固にする中心的役割を果たしている。デリバティブにより、金融リスクの分散が可能になったのだ。"

昨晩の証言
"競争原理と自由経済の堅固な基礎で大黒柱と見られていたところが、崩壊してしまった。私はショックを受け、いまだに、なぜこうなったのか分らない。"
"数十年にわたり通用していた経済モデルが突然機能しなくなってしまった。"
"私の金融経済モデルには欠陥があった。"
"金融危機がここまで大事に至った原因がいまだに分らない。"
"私の在任中はデリバティブ市場も今ほど巨大化していなかった。"
"銀行は株主を保護する能力があるという前提は間違いであった。"
"CDS債務不履行スワップは重大な問題を抱えている。"

個人的には、かなりショッキングな発言内容で、深夜に聴いた後、色々考えさせられ寝そびれてしまったよ。"金融の神様"が"私も人間さ"と語ったわけで、人間の叡智を信じる現行の経済システム、性善説の上に成り立つ制度の脆さを認めた告白とも言えるかな。

2001年米国同時多発テロの後のFRBによる超低金利政策と金融商品規制緩和が、住宅バブルの原因を作ったという非難がますます高まりそうである。米国経済専門チャンネルではウオールストリートジャーナルの記者が"うちは何回も警告を発した"と語っていたが、なにか虚しく響いた。

ちなみに今週号の英国THE ECONOMIST=エコノミスト誌は、社説で"現在の経済モデルに欠陥があるからと言って、それを全て否定すべきではない。欠陥を上回る貢献もしてきている。"と主張している。

まさに今のマーケットの根源に関わる歴史的問題であろう。今の制度を手直しすれば済む話なのか、新たなシステムを構築すべきなのか、その答えはいまだ出ない。というか永遠に出ないのだろう。完全で鉄壁のシステムなどあり得ないのだから。結局、どこで現実と妥協して折り合いをつけるか、ということなのだろうね。

そんな中で、"ヘッジファンドの運用資産処分売りとか、ユーロ安、ドル高で金価格急落"などと語っている自分自身が、"虫の目"だけの矮小な存在に思えてきた。筆者も反省。

"金2000年、ドル200年"であったな...。

2008年