豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金を取り巻く環境の激変
Page575

金を取り巻く環境の激変

2008年10月9日

VIX(市場不安係数と言われる価格変動性インデックス)の動きは、リスクヘッジとして買われる金を取り巻く市場環境のインデックスでもある。今年3月の金価格1000ドル到達前後の3月13日から19日にVIXは30台に"急騰"した。普通の状態で20台である。それが、今回はVIXが9月15日に30台に乗せた後、急騰を続け、ついに昨日は59という最高水準を記録した。VIX上昇の持続性も長いし、絶対的水準も倍近い。

それなのに金価格は900ドルをやや越えた水準に止まる。この違いは何なのか。客観的に3月と10月の市場環境を比較してみよう。

 3月  10月  今の金価格への影響 
 ドル安ユーロ高  ユーロ安ドル高
 原油急騰(インフレ懸念)  原油反落(インフレ後退)
 米利下げ打ち止め感  協調利下げ
 サブプライム不安  金融危機
 ディカプリング  リカプリング  ↓*

*新興国が米景気後退と非連動(ディカプリング)から連動(リカプリング)の兆候を見せ、その負の所得効果が金需要を減少させる可能性。ただし、3月には1000ドルまで急騰する過程で、新興国の金買いは負の価格効果(高値圏での買い控え現象)で急減したが、今回は800ドル前後で値頃感から買いが集中した。

さて、こうして比較してみると、今回のほうが金価格下げ要因も多い。ゴルフで言えば、3月は追い風の中のティーショットで距離も出たが、今回は逆風の中でナイスショットしたものの、いまいち距離が伸びない。ユーロ安が一巡し、原油に底入れ感が出れば、筆者も金に関して強気になれるのだが。

なお、ヘッジファンドのパフォーマンスも異なる。3月はコモディティ―のポートフォリオは絶好調だったが、今回はメタメタ。

今朝の日経朝刊3面"利下げでも不安定"の記事中に、"年内に約700のヘッジファンドが清算に追い込まれる見通し"という米調査会社のコメントが引用されている。信用収縮の中で金融機関がヘッジファンドから資金を回収する動きが強まり、ヘッジファンドによる株の売りが加速しているという状況だ。

そのような逆風をこなして、900ドル台まで金価格は再上昇してきた。昨年はFOMCの追加利下げの度に金価格が急騰を繰り返したが、その連想で今回は先週から"協調利下げ"が市場に織り込まれ、昨日の発表というニュースを先取りした感がある。

それから、今回、もうひとつ注目されるのは、ユーロ建て金価格が急騰していること。金には無関心と言われた英国人の間でさえ金投資が注目されるようになったと、UBSロンドンのジョンリードも言っていた。日中の金価格も欧州時間になると急騰するパターンが続いている。それを米国市場は、ほぼ追認しているカタチだ。

ただ、カウンターパーティーリスク(売買相手の破たんリスク)が高まり、プロの間の金売買市場では金融機関同士の与信枠管理が厳しくなった結果、流動性が枯渇状態である。要は、プロ同士が売買したがらない、あるいは売買できないのである。だから値だけ飛ばすことが、しばしばだ。薄い市場でついた値段は、信頼性も薄い。これが見えてしまうので、筆者は、どうしても乗りきれないのだよね。

金融安定化法案の実施は11月以降。それまでは金融"不安定"法案である。つまり、不良資産の値づけが始まらないと、金融市場の血液サラサラとはならない。市場の流動性は薄いままであろう。

明後日11日は、日経プラスワンセミナー大阪場所です。えらいタイミングでの開催となりました。筆者も、蓄積疲労でカラダが鉛みたいで、昨日テレ東のスタジオでモニター画面に映ったげっそりした己が顔を見てギョッとしたが、あとは気力だけだね。お気張りやす、ですな。

2008年