豊島逸夫の手帖

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証券化やり過ぎた国、これから始める国

2008年11月11日

AIGの公的救済が15兆円に達する規模に膨らんだということは、開腹手術を始めたところ、患部が予想以上の悪化で更なる投薬が必要ということであろう。その患部は、やはりCDS(債務不履行に対する保険)という金融派生商品。なんといっても、ちと、やり過ぎて、債券保有高以上に発行し過ぎてしまった。

いまや、CDS、ABSなど横文字3文字のデリバティブがdirty word=悪い言葉になり、サブプライムの戦犯扱いであるが、一方で中国のように、今、金融派生商品に新たに乗り出す国もある。

中国人民銀行は2005年にABS(資産担保債券)の仕組みをテスト的に始めた。その後、16件の起債件数を記録し、最新の例では中国建設銀行が住宅債権担保債券を3億ドル相当発行するという。

同国の資金調達ルートは銀行融資か株式発行が圧倒的で、債券市場が未発達である。しかし、米国で一般市民のマイホームの夢を実現する手段としてファニーメイやフレディーマックの政府系住宅金融機関がそもそも設立されたように、中国にもマイホーム普及のためには住宅ローンを証券化して売買できる債券市場のインフラ構築が欠かせない。しかも、国内には過剰流動性が溢れているので、債券の買い手には困らない。

中国では これから本格的な証券化が始まる。対して米国は証券化をやり過ぎた。その典型がAIGというわけだ。アメリカン インターナショナル グループとはよくつけたネーミングで、米国企業とはいえ、活動拠点は国際的に欧州そして日本にも広がる。いわばEU圏や日本の保険加入者を保護するために米国の税金が使われるわけで、これでよく米国民が黙っているものだと思う。最も、最終的に米国の公的救済資金は米国債発行により賄われるわけで、その最大の買い手は中国と日本なのだから、ツケは結局我々の年金運用資金などに回ってくるのだけれどね。

それにしても、デリバティブが悪者扱いになると、結局困るのは個人投資家でもあることも肝に銘じる必要あり。そもそもオプションに代表されるデリバティブ(金融派生商品)は、個人投資家がプロにリスクを転嫁して、そのリスク負担料として、顧客の個人投資家がなにがしかのカネを掛け捨てで支払う仕組みだ。ところが肝心のプロが、サブプライムの影響で社内のリスク管理が厳しくなり、リスクを負えなくなってしまった。個人投資家も、横文字3文字の仕組み商品は危ないと警戒する。その結果、これからリスクは誰が負うのかと言えば、結局、トラの子の財産を抱えた個人ということになる。横文字3文字商品ではなくても、今やリスクの無い商品などあり得ないのだから。そこで、足下では、とにかく現金が一番という風潮にもなっているのだが、それが長続きできないことは明白。結局、金融派生商品も、個人投資家のリスクヘッジ手段という原点に帰り、振り出しに戻ってやり直す時期なのだろう。

ちなみに、先進国では空売り規制の問題が浮上しているが、中国では、これから株式市場に本格的に空売りが導入される、という段階である。

2008年