豊島逸夫の手帖

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8時間のハネムーン

2008年11月6日

全米のMain Street(普通の街かど)は、新大統領とのハネムーンにじっくり浸っているが、ウオール街でのハネムーンは8時間で終わった。NY株は400を超す急落。誰がトップになろうと、いかんせん景気が悪すぎる。財政出動しても、前回の個人税金還付の小切手ばらまきが良い例だが、所詮一過性である。そこで、稼いだ時間で戦略的にいかに経済構造を立て直せるか。ここに新政権の真価が問われる。

筆者は、オバマが決裂したドーハラウンドに再び取組み、各国の歩み寄りで持続性のある自由貿易システムを構築することに期待したい。今、世界景気後退に対して、最も長期的に有効な政策手段は、金融政策でも財政政策でもない。貿易政策である。貿易の原点に戻って、各国が内需を、比較優位を持つ分野に特化し、比較劣位の分野は比較優位を持つ国からの輸入に依存して、敢えて貿易相手国に花を持たせる精神が求められている。この譲り合いの精神がなければ、結局、世界経済の中でパイの食い合いだけで、パイの大きさは変わらないどころか、小さくなってしまう可能性だってある。

事実、このままドーハラウンド決裂を放置すれば、各国が自国通貨安を計り、近隣窮乏化政策=近隣諸国の取り分(輸出分)まで奪い、人を踏み台にして自国だけは生き延びようという考えが蔓延する。でも、その心を入れ替え、うちはこれを作って輸出するから、おたくはあれを作って輸出してくれという互恵の精神で世界が団結すれば、減税とか利下げとか後遺症のある治療法を使わずに、"景気後退"という重篤な症状を治癒できるのだ。

それから財務長官には、NY連銀のティム ガイトナー氏になってほしいな。オバマと同年代の若さで、ベアスタ救済の影の立役者として奔走したとき、その後に議会証言に立ったとき、マーケットを知りぬいた実務家と冷静な理論家としての両面のバランスが非常に良い感じを受けた。

さて、足元の市場だが、NY株が下がると、またぞろヘッジファンド保有資産の強制手仕舞いの噂が流れ、金も同様の発想で売られた。とにかくマーケットの流動性は戻っていない。というか、当分、戻らない。カウンターパーティー(取引相手方)の与信リスク管理に神経をとがらせながら、いやいや売り値、買い値を提示しているのが実態である。

次のビッグイベントは15日の金融サミット。IMF改革がしきりに取り沙汰されるが、すでにIMFは相当変質した。以前は、経済危機に瀕した国々に、構造改革とか緊縮財政とか相手国の国民に、直接痛みを強制するような条件を付けて、救済資金援助を与えていたので、"意地悪な金貸し爺さん"のイメージで嫌われ者であった。それが、今回は、アイスランドもハンガリーもウクライナも、どこに対しても、うるさいこと言わずに、そこそこ、おカネを融通してあげる"好々爺"に変身した。

問題は、この"おじさま"の台所がキビシイことだ。そこで、IMF保有の金でも売って、資金を補充しようという構想も出てきた。今回は米国も、世界的な経済危機という今までにない市場環境だけに、賛成に回るであろう。金市場として気になるのは、それがワシントン協定の枠内に収まるのか、あるいは、ワシントン協定が現行第二次から来年10月には第三次五年協定に延長されるのか、ということだ。市場が軟調なときにIMF金売却が決定されると、マイナスの影響が出ると思う。

最後に、11月16日の六本木ヒルズでのWGCセミナーには、300名定員のところ700名近い応募があり、残念ながら皆さん全員をお招きできません。以前、"当日欠席者"を見込んで多目に受講票を発行し、結果、立ち見まで出してしまった苦い経験があるので、事務局も運営には慎重です。

なお、今回は、夫婦連れの応募が本当に多いですね。たまには夫婦で世界経済のことも一緒に考えることには共感を覚えるし、お茶の間で夕食を囲むときの話題も広がるだろうし、当方としても大歓迎ですよ。私の話も"お茶の間の経済学"みたいな内容を考えています。タイミング的にも前日15日開催の金融サミット直後だし、事前用意の資料などにはこだわらず喋りますから、志田さんと池崎さんと私が喫茶店で世間話しているのを横から聞くというノリにしたいと思います。

あ、それから、今日、日経CNBCに生出演します。夕方5時過ぎから、再放送は夜8時過ぎからのデリバティブ番組です。

2008年