豊島逸夫の手帖

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利下げ依存症の米国、利下げ拒否症状のEU

2008年2月8日

FRB大幅利下げにECBがどう対応するかで注目されたが、結局、予想どおり"金利据え置き"。米国景気減速のリカちゃん効果(=連動して欧州景気も失速)より、3.2%と警戒水位を遙かに超えたインフレに対する予防重視を鮮明に打ち出す。この点では、FRBの金融政策優先順位(インフレ対応よりリセッション対応重視)とは全く逆である。

これで短期金利はユーロ4%、米ドル3%の状況がしばらく続くことに。(なお、米国債券市場では米国債が売られ、10年もの3.76%、2年もの2.0%まで利回りは急上昇)。

そこで 筆者はドル安、ユーロ高が加速するかと思ったが、昨晩の外為市場ではユーロが1.44、円が107.50まで売られるドル高模様。金はドル反騰にもかかわらず907ドルまで急騰。いずれも"市況の法則"があてはまらない展開だ。いろいろ後講釈はあるが、相場にはダマシとかアヤとか言われる時間差攻撃もあり、ここは一息おいて、いましばらく様子を見たい。

さて、昨晩、本業でNYやロンドンとやりあっている合間の雑談で拾った話題を数点。

―米国人同僚に思わず"米ドル凋落。もうworthless(無価値)だ"と口走ったら、憤然として曰く。worthless ではない worth less(価値が減った)なのだ、と。その通りだね。言い過ぎて悪かった。ドル離れと言ったって、ポートフォリオのリバランスでドルの運用配分を、less(少なくする)ということなのだから。

―米国大統領選挙。共和党はロムニー撤退宣言で、マケインで固まり。民主党はblack vs womanのせめぎ合い。数で女性が勝る。ヒラリーとオバマが最後まで決着を持ち越す間に、マケインが漁夫の利という説も。
NYの街なかでは"ユーロ紙幣OK"の看板を出す店が多いものの、外為市場のドル安問題などは、大統領選挙の話題には全くならず。従って、マーケットにも影響なし。

―そのロムニー氏が支持者の前で撤退演説。"歴史上、戦争に勝って敵の領土を奪わなかったのは米国だけだぁぁぁ。日本の領土も取らなかったぞぉぉぉ。米国は、ひたすら自由のために戦い続けるのだぁぁぁ..."(ここで支持者の大拍手で中断)。

―ベアースターンズのディレクターがサブプライム関連で取り調べの報道。(同社については昨年10月22日付け本欄"ヘッジファンド破たんの実態"にて詳説した)。要は、サブプライムの悪化を知りつつファンドの顧客に販売し続けたか否かに司法当局が関心。この司法の手が同社本体にも及ぶかがウオール街でもっぱらの話題。

―ETFブームだが、キワモノで消えてゆくETFも多い。グリーンETF、ワクチンETF、そしてスーダンETF(スーダンに投資するETF?)など。
やっぱり、旬はBRICsETF、金ETFなど。

―ゴールドマンサックスが、昨晩、コンファレンスコールでのアナリストミーティングで"サブプライムの後に待ち受ける信用リスク"として商業用不動産を挙げた。2008年には同セクターが26%の価格下落見通し。その商業用不動産を1830億ドル(ちなみにサブプライムは2110億ドル)も抱える金融機関が、いずれ追加損失計上を迫られようとの観測。その内訳は銀行45%、貯蓄組合21%、保険16%など。その銀行の部分が820億ドルだが、これまで30億ドルが損失計上されたが、2008年中には170億ドルが追加損失計上となろう、との予測である。
これは筆者の感想だが、すでにボコボコに打たれたボクサーには結構効くボディーブローになりそう。青コーナーで心配気に眺めるセコンド バーナンキさんが、いつタオルを投げるか...。カウントテンをマーケットは心配している。そのボクサーは、実は利下げというステロイドに依存症の症状顕著で、試合後の薬物検査も不安。

―最後に金の話題。米国のバレンタインは男性がプレゼント。ジュエリー販売もクリスマスに次いで伸びる時期。ところが、素材の金価格急騰で、今年は金の使用量を抑えた小振り、あるいは軽いアイテムが売れ筋とか。この現象は米国だけではないはず。価格上昇―実需減少がこれから金価格にボディーブローのように効く可能性にも注目しよう。来週13日には最新需給四季報がWGCから発表される。

2008年