豊島逸夫の手帖

Page558 AIGとFOMCに揺れる市場

2008年9月17日

本稿執筆中(9月17日 日本時間朝6時)、米国では今日中に破たんの危機に瀕しているAIGの公的救済を巡って瀬戸際の交渉が続いている。この原稿がアップされる頃には大きな発表があるだろう。すでにAIG株価は2ドル台で年初から95%の下げ。AIGに35年間君臨した元CEOグリーンバーグ氏が見かねて助っ人を買って出たが、無視されて"私には下心もなにもない。ただ私が中心に作り上げたAIGをほっておけない気持ちなのだ"とCNBCのインタビューで訴えていた。

昨日も書いたようにAIG問題はリーマンより遙かに"やばい"。生命保険、雇用保険、自動車保険等々、国民生活に密着した存在であり、米国民の間には"私の保険は大丈夫かしら"という懸念が広がっている。

AIGのサブプライム関連以外の本業は傷んでいないので、債務超過による倒産の危機ではない。資金不足という流動性危機なのだ。(solvent but illiquid)。保有資産を売却すれば凌げるが、買い手が居ない。レポ市場など金融機関同士の資金融通市場も信用収縮、疑心暗鬼で凍りついたまま、貸し手不在である。そして必要資金額が8兆円近いという、とんでもない規模なのだ。これは公的救済しかあり得ない。納税者たちからの批判でリーマンは救済されなかったが、AIGが破たんすれば、その納税者たちの生活に大きな影響が直ちに及ぶ。

AIGは、輸血すれば助かる患者だ。所見では内臓に重篤な機能的異常は認められない。ただ、献血者が居ないのだ。リーマンは、借金してリスクの高い事業に失敗した実業家のようなものなので、これを救済してはモラルハザードの誹り(そしり)を受けよう。庶民の生命保険は保護するが、年収数億円の投資銀行社員は保護しないよ、という姿勢にも映る。

そしてFOMC。これも昨日書いたように"へそ曲がり"の直感が当たったね。市場は利下げを織り込んでいたが、結果は金利据え置き。(でも、声明文は、案の定、インフレより成長優先のニュアンスでバランスとった感じ)。その発表の瞬間にNY証取フロアーはブーイングの大合唱になった。でもね、やはり"いたれりつくせり"の緊急流動性対策をすでに講じたのだから、利下げというエースカードはまだ切らずにとっておきたい、というのがバーナンキの本音だと思うよ。仮に1.5%にまでFF金利を下げて、また来月に新たな金融危機でも勃発したら、どうするの?もうFRBとしても打つ手がないでしょ。

最悪のシナリオだけど、最後に残ったカタチのゴールドマンサックスとモルガンスタンレーという二大投資銀行が、これまでのレバレッジを活用したビジネスモデルが崩壊した後に、単独で生き残れるか保証はないのだ。ライバルはグローバルなリテール(個人投資家業務)のフランチャイズ(営業基盤)を持つメガ総合金融グループである。メリルという巨大証券会社はバンカメという大手商業銀行に吸収合併されてメガグループに変身する。シティーグループやUBSはまだ問題を抱えているが、ここを凌げば、やはり証券と銀行にまたがるメガグループだ。ここに、GSとモルスタにも商業銀行との合併話の噂が絶えない理由がある。

(なお、ここにきて、昔ながらの預金を集め企業に融資する商業銀行部門が見直されている。投資銀行の派手な商売のバブルがはじけ、地味で収益性も低いが堅い銀行屋さんの評価が上がっているのだ。金融の原点回帰か。昨日、ネットセミナーでリーマン日本法人の入っている六本木ヒルズに行って感じたこと。ヒルズ族は地盤沈下。郊外の支店に働く普通の銀行マンが浮上)。

結局、バーナンキの姿勢を見るに、サラ金に譬えれば、融資審査基準は緩めて緊急のカネが必要なら融通するよ、でも、所定の金利は変えないよ、という方針のようだ。

リーマンの後処理も、デリバティブ市場が経験する最大の試練となろう。(ここは業界レベルの話になるが)OTCの相対取引はカウンターパーティーリスク管理が厳しくなり、売買が成立しなくなっている。そこで、デリバティブ市場のハブになる共同清算機構を設立すべきとの議論が浮上している。金市場でも、取引相手の選別が進み、AIG組成商品を運用から外すとか、フォワード先物取引見合わせなど動きが見られる。信用収縮がジワジワ波及しているのを感じるのだ。

そして原油は続落。イランの核準備報道にも全く反応せず。金は利下げ無しということで失望感。原油に連れて反落。質への逃避買いとインフレ懸念後退と強弱材料拮抗するなかで、流動性を少しでも高めておきたいファンド、投機筋の戻り売りが足元では頭を抑えている。とはいえ、NY金先物買い残は2月のピーク660トンから400トンも減少した。ポジションの整理は進んでいる。

そして、プラチナの下げがきつい。24時間で100ドル以上の下げ。ひょっとすると3桁の価格に戻るか、と言えるほどの様相だ。

最後に、中国がどさくさに紛れて電撃利下げ。米国金融不安の余波に対する防波堤の補強工事に踏み切ったね。インフレ警戒モードから成長維持モードへ明らかな切り換えだ。

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