豊島逸夫の手帖

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買収ファンドも資金難

2008年3月27日

クリアチャンネルという米国最大のラジオ局ネットワークが、今、ウオール街の話題だ。同局はデジタルミュージックプレーヤーとか衛星放送に押され気味で、近年は世界中に100万箇所を越す屋外広告を運営して稼いでいた。そこにベインなどの大手買収ファンドが195億ドルの買収を仕掛けたのだが、それが頓挫しそうとWSJが報じた。この一件がなぜ話題になるかと言えば、昨日述べたヘッジファンドと同じような背景があるから。今日も日経朝刊に"国内に拠点を置く"買収ファンドが過去最大に、との記事が出ているが、今をときめくこの分野にも信用収縮の影響が色濃く出始めた例がこの一件なのだ。

一般的に買収ファンドは銀行団から融資を受け、ヘッジファンドと同じようにレバレッジをかけた資金で企業を買収する。ところが、クリアチャンネルについては、シティー、モルスタ、ドイッチェ、クレディスイスなどの銀行団が急に貸し渋り始めたのだ。もちろん理由はサブプライム発の信用不安=信用収縮。自動車ローン、クレジットカード、学生奨学ローン、商業用不動産とドミノのように拡大する現象、そしてディレバレッジが、こういう分野にも波及してきたのだ。

もうひとつの話題は、べアスタ本社に抗議デモの一団が乱入したこと。米国テレビ局も、しきりに現場中継を流していた。"べアスタより低所得者のサブプライムローン借り手を救済せよ"とのメッセージ。まぁ、ありがちな、おそらくactivist(扇動者)による仕掛けであろうが、もしべアスタ救済されずば、CDO市場は破たんし、金融危機が現実のものになっていたのだよ。その禍は米国全国民、否、全世界に及んでいたであろうことを考えるべきだね。bailout(救済)しなければwipeout(全滅)になっていたというコメントに◎!

ただし、今回の一連の救済措置で、FRBの全バランスシート9000億ドルの約半分に相当する4000億ドルが国債以外の債券となり、信用リスクに晒されるという事実も重い。ポールセン財務長官も昨日の会見で"FRBの財務体質も納税者も守らねばならぬ"と発言。時限措置とはいえ証券会社が担保として差し出した巨額の住宅関連債券などを抱えるFRBが発行する紙幣がドル。もし、その担保価値が毀損すればどうなるのか。ドル凋落の象徴的出来事と感じる。

なお、ヘッジファンド破たん統計が発表された。
2006年 83件 350億ドル(この年はアマランス91億ドル破たんがあった)
2007年 49件 186億ドル
そして、2008年は、すでに、66億ドルとのこと。

最後に金価格は950ドル台まで戻してきた。耐久財受注など、相変わらず悪いマクロ経済統計にドルが敏感に反応して売られ、原油は急騰という、おきまりの構図。

先週は一時900ドル寸前まで売り込まれたが、最近の傾向で、ワンツーパンチを喰ったあとの立ち直りが早い。早くもファイティングポーズを取って戦う構え。結局、マーケットがにわかに"しゅう雨"に見舞われても、膨張するマネー=過剰流動性が何もせずに屋内に引っ込み、"雨宿り"出来るはずもないのだよね。サブプライム豪雨はいつ止むかも知れず、と割り切り、鬼平ではないが"急ぎ働き"のため、濡れるのは覚悟で街中に飛び出してゆくのだ。

2008年